「SpaceJet」は機体完成も事業化に至らず、三菱重工が中止を正式決定製造マネジメントニュース

三菱重工業は2023年2月8日、同日の取締役会で、連結子会社の三菱航空機とともに開発を進めていたリージョナルジェット機「SpaceJet」の開発中止を決定したことを公表した。

» 2023年02月08日 07時30分 公開
[遠藤和宏MONOist]

 三菱重工業(三菱重工)は2023年2月8日、東京都内で会見を開き、連結子会社の三菱航空機とともに進めていた民間航空機事業「SpaceJet(スペースジェット)」の中止を正式に発表した。これに伴い、リージョナルジェット機「SpaceJet M90」の開発も中止する。なお、今回の事業中止に伴う同社業績への影響は連結および個別ともに軽微だという。

反省点は高度化した民間航空機の型式証明プロセスへの理解不足

三菱重工 取締役社長 CEOの泉澤清次氏

 三菱重工 取締役社長 CEOの泉澤清次氏は、「(SpaceJet M90に関しては)2020年10月に開発活動を立ち止まりにしていたが、本日の取締役会で開発の中止を決定した」と話す。中止の要因として「技術」「製品」「顧客」「資金」の問題を列挙した。

 技術の問題に関して、泉澤氏は、「一定水準の機体を開発できたが、プロジェクト開始から(多くの)時間が経過し、一部の機能や装備品が、最新の技術と比較して競争力が低いと判断した。また、数十年にわたる機体の運行を考慮すると、これから(市場に)投入する機体には『SAF(持続可能な燃料)』対応や電動化などの脱炭素に向けた取り組みも必要になるが、この点でも設計の見直しが必要だった」と説明した。

 製品の問題では、SpaceJet M90で使用する多くの装備品が海外パートナーからの購入品で、為替レートの変動や新型コロナウイルス感染症などの影響により、コスト面や納入面で見通しが立たなかった。顧客の問題では、新型コロナウイルス感染症の影響により市場が混乱し、北米では航空会社とパイロットの労働組合の間で結ばれている労働協約の中に設けられた条項「スコープ/クローズ」の緩和が進まず、開発中のSpaceJet M90では市場に適合しないと結論を出した他、コロナ禍によるパイロット不足の影響を受け、リージョナルジェット機の先行きは不透明と判断したという。

 資金の問題では、ここまでの4つの問題を解決するのに必要な一部機能見直しによって、型式証明でさらに資金と期間が必要だと分かり、事業性を見いだせなかった。

 泉澤氏は、「完成機としては一定水準の機体を完成でき、型式証明取得のための体制を整え、3900時間を超える飛行試験を行えた。欧州航空安全局(EASA)および米国連邦航空局(FAA)と相互認証の協定も締結し、型式証明プロセスを実践できたことは我が国の航空機産業のプレゼンス向上につながった。また、SpaceJetの開発を通じ、航空機開発プロセスのデジタル化に向けたさまざまな技術情報の獲得など、基盤整備を実現した。こういった技術や知見を他の機種開発で生かす。反省点としては、高度化した民間航空機の型式証明プロセスへの理解が不足していた結果、開発で大幅な設計見直しや認証の整備に遅れが生じ、開発が遅延しただけでなく、長期にわたり開発を民間プロジェクトとして継続するためのリソースが足りていなかった」と成果や課題を振り返った。

 今後は、完成した機体に関して、カナダのボンバルディアから事業継承したリージョナルジェット機「CRJ」を扱う北米の完全子会社「MHI RJ アビエーショングループ(MHIRJ)」で管理し、顧客との関係維持を図る他、アフターマーケット事業の規模拡大を行い、事業の安定化を推進する。

 今回の開発で培ったエンジニアリング能力については、海外の航空機メーカーとのパートナーシップに生かす。「(国内で)将来に向け脱炭素化のための次世代技術の開発が盛んに行われていることを考慮し、国家プロジェクトも活用して、未来の(リージョナルジェット機)完成機(へのサポート)も視野に入れ、(脱炭素化のための)次世代技術開発や他社との共同検討を行う。スペースジェットの開発担当者は、防衛分野に再配置し、次世代戦闘機の開発を担う。愛知県内にある(SpaceJetの開発)施設と設備は、広く活用できるような拠点にするため、関係者と話し合いを進める」。なお、SpaceJet事業は中止するものの、航空エンジンをはじめ民間航空機向けの事業は引き続き取り組みを強化していくとしている。

リージョナルジェット機「SpaceJet M90」の開発中止の概要[クリックで拡大] 出所:三菱重工

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