SpaceJetは「いったん立ち止まる」、三菱重工は新中計で成長領域を創出できるか製造マネジメントニュース(1/2 ページ)

三菱重工業は2020年度第2四半期の決算と、2021〜2023年度の中期経営計画「2021事業計画(21事計)」を発表した。半年前倒しで策定した21事計のうち、SpaceJet(旧MRJ)事業については、「M90の開発はいったん立ち止まる」と説明し、100%の事業凍結ではなく2024年以降の旅客需要の回復を期待して一部事業を継続する方針を示した。

» 2020年11月02日 06時30分 公開
[朴尚洙MONOist]

 三菱重工業(以下、三菱重工)は2020年10月30日、オンラインで会見を開き、2020年度(2021年3月期)第2四半期(7〜9月)の決算と、2021〜2023年度の中期経営計画「2021事業計画(21事計)」を発表した。2020年度上期業績については、2020年5月に発表した業績見通しに近い数字となり、第2四半期に入って回復傾向にあるという。一方、半年前倒しで策定した21事計のうち、大幅に投資を削減することとなったSpaceJet(旧MRJ)事業については、「開発はいったん立ち止まる」(三菱重工 社長 CEOの泉澤清次氏)と説明し、100%の事業凍結ではなく2024年以降の旅客需要の回復を期待して一部事業を継続する方針を示した。

三菱重工の泉澤清次氏 三菱重工の泉澤清次氏

 泉澤氏は、21事計の策定を半年前倒した理由について「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の影響に加え、火力事業の環境変化、民間航空機分野の戦略見直しが求められている。この大きな事業環境の変化に対応するためには、早急に次期中計である21事計を策定する必要があった」と語る。

 21事計は、「エナジー・環境」「社会基盤」「航空・防衛・宇宙」という現行の事業を構成する3つの領域の中で、「エナジー・環境」における「エナジートランジション」と「社会基盤」における「モビリティ等の新領域」を将来的な成長エンジンとするための基盤づくりを目指すことになる。これら2つの成長領域には、21事計の3年間で合計1800億円を投資し、2023年度までに1000億円規模の新事業を創出したい考えだ。2030年度には、エナジートランジションで3000億円、モビリティ等の新領域で7000億円、合計1兆円の売上規模まで伸ばすこと目標としている。

21事計で成長投資を行う「エナジートランジション」と「モビリティ等の新領域」は、2030年に売上高1兆円規模に(クリックで拡大) 出典:三菱重工
21事計における2023年度の目標財務諸表の推移 21事計における2023年度の目標(左)と財務諸表の推移(右)(クリックで拡大) 出典:三菱重工

 現中計の「2018事業計画(18事計)」では、SpaceJet事業に3年累計で3700億円を投資する一方で、これら成長領域への投資は800億円にとどまっていた。21事計では、SpaceJet事業への投資を200億円にとどめる一方で、成長領域への投資は1800億円に拡大する。泉澤氏は「三菱重工の多くの事業が成熟する中でどうやって成長するかが重要だ。2050年のカーボンニュートラル達成に向け、水素などの燃料利用やカーボンサイクルなどの幅広い技術でエナジートランジションを推進できる。モビリティ等の新領域では、機械システムとデジタル技術の統合で新しい価値を提供できる」と強調する。

21事計における資金配分計画 21事計における資金配分計画(クリックで拡大) 出典:三菱重工
エナジートランジションモビリティ等の新領域 成長領域として投資を集中する「エナジートランジション」(左)と「モビリティ等の新領域」の事業イメージ(右)(クリックで拡大) 出典:三菱重工

航空機開発技術には一定の評価も「型式証明取得のノウハウが欠けていた」

 COVID-19の影響により市場が大きく落ち込んでいる民間航空機事業の取り組みも見直すことになる。21事計では、旅客需要の本格的回復が2024年前後になると想定しており、保守や修理などのMRO(Maintenanc, Repair and Overhaul)の市場は新規基材じゅいうに先行して回復するとみている。そこで、民間航空機の構造体事業(ティア1)については、2024年以降の回復期に備えて効率化や新技術開発を推進し、国際新規プログラムへの参画を図る。カナダのボンバルディアから買収したCRJ事業は、回復が早いMRO市場が対象になっていることから、早期の拡大を進めるとしている。

21事計における民間航空機事業の取り組み方針 21事計における民間航空機事業の取り組み方針(クリックで拡大) 出典:三菱重工

 民間航空機事業で最大の課題になっているのが、これまで多くの資金を投じてきたSpaceJet事業だ。当初計画から量産時期の延期を重ねた上に、COVID-19の影響で納入先として当て込んでいた全日本空輸(ANA)や日本航空(JAL)の事業環境は極めて厳しい状態であり、新規に航空機を購入するような状況ではなくなっている。これらの開発状況と市場環境を踏まえて、開発を続けてきた座席数が76〜92クラスのスタンダードモデル「M90」の開発活動について「いったん立ち止まる」(泉澤氏)とした。

 ただし、量産出荷の壁となってきた型式証明文書の作成プロセスは継続する他、これまでの設計技術や合計3900時間に上る飛行テストのデータなどについて整理し、再開のための事業環境の整備にも取り組む。また、これまでの完成機開発のノウハウや知見は、CRJ事業や防衛分野で活用する方針も示している。報道陣からはSpaceJet事業に対して「事業凍結」という言葉が投げかけられたが、泉澤氏は一貫して「いったん立ち止まる」という方向性を述べるにとどめた。

 また、このような状況になったSpaceJet事業についての総括を求められたが、「4000時間近い飛行テストで大きな事故がないなど航空機開発の技術についてはそれなりの評価をしている。一方、そういった技術だけではなく、航空機を実際に購入してもらうのに必要な型式証明を取るためのプロセスにはノウハウや知見が必要であり、それが欠けていたことを反省している」(泉澤氏)とした。

 なお、21事計では人員削減も計画している。海外では、石炭火力、製鉄機械、ターボチャージャ、物流機器、冷熱・民間航空機などの生産減に対応して既に2000人規模の人員削減を実施しており、国内も21事計の3年間で、石炭火力、民間航空機、商船の3分野で3000人規模の人員対策を行う。これらの人員対策は早期退職募集などは行わず、人員の再配置やグループ外への派遣などで対応する。2020年度上期時点で、3000人のうち1000人のめどがついているという。

21事計における人員削減計画 21事計における人員削減計画(クリックで拡大) 出典:三菱重工
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