産業ごとの付加価値額と従業者数の数値が出ましたので、従業者1人当たりの付加価値についても見てみましょう。図3は産業別の1人当たり付加価値、つまり生産性を表す指標となります。
図中の緑色の丸は、2008年の数値に対する2019年の数値の変化率を示したものです(右軸)。多くの産業で生産性が向上している事が分かりますね。減少しているのは、石油製品・石炭製品製造業と、印刷・同関連業、そして鉄鋼業です。鉄鋼業は従業者数がほとんど変わらない中で付加価値額が大きく減少したので、生産性が大きく低下しているようです。
生産性の高い産業のトップ3は石油製品・石炭製品製造業(3469万円/人)、化学工業(3020万円/人)、飲料・たばこ・飼料製造業(2689万円/人)です。この3産業は突出して生産性が高い産業ですが、図2を見て分かる通り化学工業以外は従業者数が極端に少ない状況です。それに対して、化学工業は従業者数も比較的多く、産業全体の付加価値額も2番目に高くなっています。
4番目に生産性が高いのが、輸送用機械器具製造業(1574万円/人)です。一方で、従業者数の最も多い食料品製造業(908万円/人)は、24産業中19番目の水準と比較的低位に位置します。
製造業は非製造業と比較して、基本的に生産性の高い産業ですが、その製造業の中でも産業次第でこれだけ生産性に違いが見えてくる、というのは意外な事実かと思います。
今回は、製造業の中の産業別の変化についてご紹介しました。従業者数も付加価値額も多いけれども生産性が低めな食料品製造業。その全てが比較的高い水準の輸送用機械器具製造業。従業者数は少なめだけど高い生産性を誇る化学工業など、産業によって特徴もさまざまです。
繊維産業や印刷・同関連業など、かねてより規模が縮小していた産業は、引き続きその傾向が進んでいるようです。製造業の基盤を担ってきた鉄鋼業も大きく付加価値を減少させています。
さらに、電子部品・デバイス・電子回路製造業と情報通信機械器具製造業というハイテク産業の代表格が、国内では縮小してしまっているという意外な事実も分かりました。
一方、輸送用機械器具製造業には自動車産業が含まれていることも関係するのか、付加価値額や従業者が増加傾向にあり、国内製造業の中でも存在感を見せていますね。今後は電気自動車への切り替えなど、著しい変化が予想される分野でもあります。これらのデータを見ながら、さらに詳細な業界分析をしてみると面白いかもしれません。
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小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役
慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。
医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業等を展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。
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