リーマンショックからの約10年で、付加価値額を一番下げた産業は何なのか?小川製作所のスキマ時間にながめる経済データ(4)(1/2 ページ)

ビジネスを進める上で、日本経済の立ち位置を知ることはとても大切です。本連載では「スキマ時間に読める経済データ」をテーマに、役立つ情報を皆さんと共有していきます。第4回では、産業別に見た製造業の統計データを見ていきます。

» 2022年11月01日 06時00分 公開

 今回は製造業における変化を産業別にご紹介したいと思います。使用する統計データは経済産業省の「工業統計調査」です。産業ごとの従業者数や付加価値額の統計データも公開されており、とても興味深い情報となっています。

 製造業はGDP(付加価値)も労働者数も多く、国内産業における「稼ぎ頭」の業界といえます。しかし初回で確認した通り、現在はそのどちらの指標も減少傾向にある状況です。

 では産業別に見ると、どのような変化や特徴があるのでしょうか? 付加価値や労働者数、生産性について見ていきましょう!

付加価値額の減少が顕著な産業は鉄鋼業

図1:製造業における産業別の付加価値額変化(2008年から2019年)[クリックして拡大] 出所:「工業統計調査 工業統計表 産業別統計表」を基に筆者にて作成

 図1は付加価値額を産業別にグラフ化したものです。赤色のグラフが2008年、青色のグラフが2019年のデータとなります。緑のグラフは2008年から2019年にかけての変化量を示したものです。2019年のデータの比較対象として2008年のものを採用したのは、これが産業区分の変更後の最も古いデータだからです。

 ところで、2008年はリーマンショックが起きた年ですね。私も中小製造業で働く当事者の一人として出来事を体験しましたので、今でも当時の様子を鮮明に覚えています。日本の製造業はそれ以前から縮小傾向にあるとは感じていましたが、リーマンショックを機にさらに環境が激変していきます。

 私たち受託製造業は引き合いが激減してしまい、ただでさえ安い仕事をさらに安値で受注して、何とか仕事量を確保するのが当たり前になっていきました。まさしく2008年は国内製造業にとって、転換点となった年といえるのではないでしょうか。

 さて、もう一度グラフを見てみましょう。日本の製造業のうち、付加価値を稼ぐトップ3は上から順に、輸送用機械器具製造業(約16兆8000円)、化学工業(約11兆5000億円)、食料品製造業(約10兆3000億円)という事になります。自動車関連産業が含まれる輸送用機械器具製造業が、最も付加価値を稼いでいる産業ですね。

 2019年の製造業全体の付加価値額は100兆2000億円です。ということは、上述の3つの産業だけで、付加価値額の3分の1以上を占めていることになります。ちなみに、2008年の製造業全体の付加価値額は約101兆3000億円です。前回ご紹介しましたが、1999年は107兆9000億円でしたので、付加価値額は全体的に減少傾向にあると分かります。

 上位3産業を含めこの11年間で付加価値額を増やしている産業も多いですが、一方で、付加価値額を減らしている産業もいくつかあります。この辺り、産業によって明暗が分かれているようですね。

 付加価値額の減少が最も顕著な産業が、鉄鋼業です。3兆円近くも付加価値額を縮小させています。この他に減少傾向が特徴として表れているのが、電子部品・デバイス・電子回路製造業と、情報通信機械器具製造業です。先端的な半導体産業や情報技術を担うこれらハイテク産業が、日本の場合は縮小しているという事になります。さらに、印刷・同関連業と繊維工業も縮小が続いています。製造業の業界内変化も見えて、興味深い統計データですね。

輸送用機械器具製造業と化学工業などは従業者数が増加

 付加価値額だけでなく、産業ごとの労働者数の変化も見てみましょう。図2が産業別の従業者数についてのグラフです。なお、製造業全体の従業者数は、2008年には836万人、2019年には772万人となっており、11年間で64万人程度減少したことになります。

図2:製造業における産業別の従業者数変化(2008年から2019年)[クリックして拡大] 出所:「工業統計調査 工業統計表 産業別統計表」を基に筆者にて作成

 順位を見ると、付加価値額のグラフとは少し様子が異なるようです。まず、産業別に見ると、最も従業者数が多いのが食料品製造業です。この11年で変化はほとんどありません。次いで従業者数が多い輸送用機械器具製造業は106万人となっていますが、化学工業とともに従業者数がプラスになった数少ない産業です。化学工業の従業者数は38万人で、24産業中8番目の規模となります。

 化学工業は付加価値額では2番目の産業ですので、少数の労働者で高い付加価値を生み出す、生産性の高い産業と言えそうですね。一方で、食料品製造業は最も従業者数が多いですが、その割に付加価値額は3番目の水準です。

 また、従業者数が大きく減少している産業が多い事もよく分かりますね。付加価値額の減少している電子部品・デバイス・電子回路製造業、情報通信機械器具製造業、印刷・同関連業、繊維工業はいずれも大きく従業者数が減少しています。これらは、かつての産業規模が維持できず、縮小している産業といえそうです。

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