アイティメディアは「ITmedia Virtual EXPO 2025 冬」を開催した。本稿では、その中から「『真のメドテック』へ――オリンパスが挑むサプライチェーン組織変革」をテーマとした、オリンパス 執行役 CMSOの小林哲男氏による講演内容を紹介する。
アイティメディアは2025年2月12日~3月14日まで、製造業向けの国内最大級のオンラインイベント「ITmedia Virtual EXPO 2025 冬」を開催した。本稿では、その中から「『真のメドテック』へ――オリンパスが挑むサプライチェーン組織変革」をテーマとした、オリンパス 執行役 チーフ・マニュファクチャリング・アンド・サプライ・オフィサー(CMSO:最高製造供給責任者)の小林哲男氏による基調講演内容を紹介する。
オリンパスは2019年に真のメドテック(MedTech)企業への変革に向けた経営戦略を発表し、その中で「Transform Olympus」という変革プロジェクトを開始した。業務の改革を推進するだけでなく、改革推進のための支援プログラムの導入や成果を上げた従業員の表彰など、自律的に変革を推進する力を生み出しながら、進めてきた。こうした流れの一環として、製造や調達、修理などモノづくりに関わる機能を集約した「CMSO組織」を2022年に立ち上げた。サプライチェーンを、地域ごとのサイロ化した運営からグローバル規模で一体化したオペレーションを行えるように、組織変革を進めてきた。
オリンパスの主力製品となる消化器系内視鏡は、グローバルマーケットシェアで約70%を握るなど、市場をリードする存在だ。売り上げも高齢化などによる健康志向の高まりからここ10年での年平均伸長率は6.6%に達している。北米、欧州に加えてアジア、中国での売り上げも成長を続けており、海外売上高比率は87%となっている。
一方で、高度な微細加工や組み立て技術が求められる製品の生産は、欧米や東南アジアにも生産拠点を構えているものの、国内が7割を占めている。オリンパスの生産体制は、消費地生産ではなく、各開発、製造拠点の特性に合った製品をグローバルに提供する形となっている。さらに、顧客に近い場所でタイムリーな修理サービスを展開するためのサービス拠点を、グローバルで100カ所設けており、そのオペレーションもCMSOが管轄している。
その中でサプライチェーンの変革に取り組んだ要因として、小林氏は“停滞感”を挙げる。「急速に変化するさまざまな外部環境や事業環境に対して社内の体制は、これといった大きな変化もなくこれまでと同じような業務の進め方をしていた。これは良い面もあるが各国の医療規制や環境規制が厳しくなる中で、それぞれで個別に対処するのは非効率で十分に対応できないリスクもあった」と小林氏は当時を振り返る。
個別対応に限界があるのは見えてきていたが、オリンパスのサプライチェーンの体制は、各国で個別のプロセスや業務管理が中心となっていたため、地域や拠点でバラバラだった。また、内視鏡というニッチな業界が主戦場であったため、モノづくりに必要な仕組みは基本的に自前で作り上げていた。それぞれにカスタマイズされたシステムが導入され、全体を包括して把握できる仕組みにはなっていなかった。
一方で、医療事業に多くの企業の参入があったり、競合環境が激化したりする状況に十分に対応できているとはいえない状況だった。地域間で知見やノウハウを共有することも少なく、総合的に変化への対応力が弱くなっていた。小林氏は「これまで高いシェアを維持し安定成長を続けてきたため、ある種の“おごり”があった。ただ、事業拡大に伴い新製品開発の負荷は高まり、規制対応なども含めてマネジメントとして対処すべきことは増大しており、対応の遅れが発生するなど、課題が顕在化しつつあった」と述べる。
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