「メイカームーブメント」から10年。3Dプリンタをはじめとする「デジタル工作機械」の黎明期から、新たな設計技術、創造性、価値創出の実践を積み重ねてきたデザイン工学者が、蓄積してきたその方法論を、次に「循環型社会の実現」へと接続する、大きな構想とその道筋を紹介する。「環デザイン」と名付けられた新概念は果たして、欧米がけん引する「サーキュラーデザイン」の単なる輸入を超える、日本発の新たな概念になり得るか――。連載第4回では「ディスクリート設計×マテリアルリサイクルによる東京2020表彰台プロジェクト」について取り上げる。
野老朝雄氏がデザイン、筆者研究室の卒業生である平本知樹氏、筆者、そして、特任講師の湯浅亮平氏、江口壮哉氏が3Dプリントに関する各種設計を担った東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(東京2020大会)表彰台は、「みんなの表彰台」と呼称された市民参加型のプロジェクトであった。
全国の総合スーパー、ドラッグストア約2000店と全国113の学校に、“使用済み洗剤プラスチック容器”の回収ボックスが設置され、約9カ月間で、店舗から11.9t(トン)、学校から1.1t、それ以外の企業/団体から11.5tの資源が回収された(詳しくはこちら)。これら全国から回収された合計24.5tものリサイクル材料を主材料とし、京都府に拠点を構えるエス.ラボによる高速3Dプリント技術などをフル活用し、合計98基の表彰台が制作された。
表彰台のデザインは、正方形上のレリーフパネル(約7000枚製造)を設計上の最小単位として寸法が定められ、それらを組み合わせた「台座(約400基製造)」を、物理的な基本単位(モジュールユニット)とすることで、トラックでの輸送から、現場での即時的な組み立てと解体、競技種目による台数の柔軟な変更、そしてソーシャルディスタンス対応(急きょ選手同士の距離を十分に空けることになった)など、次々と増え続ける要求の全てに“応答”できた。前回述べた「ディスクリート(離散的)設計」の効能を感じる1つの経験となった。
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