「メイカームーブメント」から10年。3Dプリンタをはじめとする「デジタル工作機械」の黎明期から、新たな設計技術、創造性、価値創出の実践を積み重ねてきたデザイン工学者が、蓄積してきたその方法論を、次に「循環型社会の実現」へと接続する、大きな構想とその道筋を紹介する。「環デザイン」と名付けられた新概念は果たして、欧米がけん引する「サーキュラーデザイン」の単なる輸入を超える、日本発の新たな概念になり得るか――。連載第3回では「ディスクリート(離散的)設計の可能性」について取り上げる。
これからの人工物デザインは、より「廃棄」や「捨て方(捨てない方法を含む)」までを射程に含む必要がある。一度使い終えた人工物を、修理して使うことは「リペア」、そのままの形で再利用することは「リユース」、いったん材料レベルにまで戻した上で再生利用することは「リサイクル」と呼ばれる。
こうした中、前回紹介したような「FabLab3.0」のアプローチは、「リユース」と「リサイクル」の中間を開拓するものと捉えることができる。ある人工物を、あらかじめ線状あるいは立体状の基本単位モジュールの組み合わせとして設計しておけば、使い終えた際に、基本単位モジュールまでバラバラに分解し、また別の形に組み立て直して再使用できる。本連載では、これを「ディスクリート(離散的)設計」と呼ぶことにしよう。
ディスクリート設計は、再利用の際に形の組み換えを伴う。従って、形を変えずにそのまま再利用(=リユース)するアプローチとは異なる。かといって、材料レベルまで戻す(=リサイクル)わけでもない。あくまで(あらかじめ設定された)「基本単位」にまで戻すことにとどめる。そのため、「リユース(そのまま再利用)」と「リサイクル(材料まで戻して再生利用)」の“間”なのである。このアプローチの鍵は、“組み立てた際には「製品」として丈夫に機能し、かつ使われなくなった際には分解/再構成しやすい”という性能を併せ持った「基本単位」を、いかにして設計するかということになる。分かりやすくいえば、「LEGO(レゴ)」に代表されるモジュール玩具の備えている性質を、どこまで実世界の人工物に応用できるかという探求になる。
こうした「基本単位」の分解/組み立てアプローチが、当たり前のように「設計&施工技術」として太古から蓄積されてきたジャンルは「建築」である。人が運べる大きさのレンガ状のブロックを積み重ねて構築されたピラミッドやスフィンクス(組積造)や、高度な継手、仕口加工が施された木材同士を組み合わせ構築されてきた木造建築は、いずれもこの原理を備えている。
「建築」でこうした設計施工技術が編み出されてきた理由はシンプルで、人工物が巨大であるが故に、部品の組み合わせ、積み重ねでしか、そもそも施工を行うことができないからである。さらに、組み立て作業が「工場」ではなく、通常「現場」で行われるため(※個人的にはこの点が「自動車」と「建築」の生産システム上の最大の違いであるように思われる)、基本モジュールをどうやって現場まで運び、集団作業で、どの順番で効率的に組み立てるかという課題と常に向き合わざるを得なかったという背景がある。
建築では、もっぱら「部品を組み立てて巨大な人工物をつくる」必要性に端を発し、「基本単位」を基にしたディスクリート設計/施工が長く積み上げられてきた。ただ、「つくる」過程のみならず、「使い終えた後」の過程にまでその特性が生かされてきたのは、主に木造建築のジャンルである。接着剤で固定したり、金物やクギで固定したりすることを禁じ手とし、あくまで緩く「編む」ようにして組み上げられている古来の木造建築は、プロセスを逆回しにして丁寧に分解すれば、ほぼ全ての部品を再利用できるという特異な性質がある(なお、木造建築を部品にまでバラバラにすることを、日本建築では特に「ほどく」と呼んでいる)。このことから、使われなくなった建物をいったんバラバラにし、別の場所に移動して、組み立てて再利用する(=移築再生/リロケーション)という発想が生まれてくる。これは「スクラップ&ビルド」型の建築解体とは根本的に発想が異なる。
日本初のFabLab(ファブラボ)となった「ファブラボ鎌倉」(2011年発足)がラボを構えている「結の蔵」という建築は、もともと秋田県湯沢市にあった築150年ほどの酒蔵が、木材(部品)レベルにほどかれて、鎌倉まで運ばれ、組み立て直された建物である。木材を再利用することはもちろん、土壁に使われていた「土」も回収後そのまま運ばれ、新たな藁(わら)が混ぜられ、練り直されて壁材として再利用されている。その全工程は設計を担当したO設計室のWebサイトで紹介されている。
こうした設計技法は今、木造CNCルーターなどを用いたデジタルファブリケーション建築にも現代的に引き継がれつつある。その一例として、筆者の研究室の卒業生である秋吉浩気が立ち上げた建築系デジタルファブリケーションスタートアップ、VUILDの実践を挙げておく(彼の著書である『メタアーキテクト──次世代のための建築(現代建築家コンセプト・シリーズII-1)』(スペルプラーツ)や『建築家の解体』(VUILD BOOKS)に詳しい内容が記されている)。
さらに、今から約60年前の1960年、戦後の復興期が終わり、高度経済成長の時期へ向かった時代にも有名な建築運動があった。当時、加速度的に建設されていた金属やコンクリートの巨大なビル群や都市にも、「分解と組み立て」のような「新陳代謝」により生物的特徴を与えようとした、日本発信の建築運動「メタボリズム」である。
その代表的建築といわれる「中銀カプセルタワービル」(設計:黒川紀章氏)は、50年たった2022年のまさに今、解体作業が進行しており話題になっている。トラックに積んで日本の道路も走れるようにと寸法が設定された、面積10m2(4000mm×2500mm)のカプセルを基本単位ユニット(1部屋)としてつくられた建築であり、もともとの構想では、25年ごとにカプセルが取り外され、交換されるはずだったという。結局、解体が決定された現在まで50年間、積極的にカプセルの分解/交換が行われることはなかったが、今まさに、解体の過程で1つ1つのカプセルが丁寧に取り外され運ばれている(カプセルが倉庫に運ばれ、保管される様子などが、筆者のタイムラインには流れてくる)。明らかに「スクラップ&ビルド」型の建築の解体現場とは異なる様相がここにあるのだ。
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