サステナブルなモノづくりの実現

ディスクリート(離散的)設計の可能性環デザインとリープサイクル(3)(3/3 ページ)

» 2022年09月26日 08時00分 公開
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ディスクリート設計×マテリアルリサイクル×リユースの可能性

 さて、このように海外でも進められている「ディスクリート設計」の研究群の流れに乗り、筆者自身も長らく日本で研究を行い、実践に向けての準備を進めてきた。その基礎的な「形」の理論については、『コンピュテーショナル・ファブリケーション 「折る」「詰む」のデザインとサイエンス』(著:田中浩也、舘知宏| 彰国社)でまとめている。

 しかし、本連載で重要なのは理論というより、むしろ実践である。2021年に開催された「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会」(東京2020大会)の表彰台プロジェクトにおいて、筆者は幸運にも真の実践の機会を得ることができた。

 このプロジェクトの詳細については、上記のリンクにある通り既に記事化されているが、およそ1年が過ぎ、あらためて本連載の視点から振り返って整理してみると、以下のように捉え直すことができ、これら3つの設計技法の合成であるといえる。

  1. 「野老紋」を基調とした基本単位モジュールの組み合わせによる「ディスクリート設計」(野老朝雄氏、平本知樹氏による)
  2. 市民から回収した廃プラスチックのマテリアルリサイクル技術による「基本単位モジュール(約7000個)」の3Dプリンタ生産
  3. 基本単位モジュールの一部組み換えによる「大会後の別目的リユース」

 もともと表彰台は、個人競技から集団競技まで、全く異なる人数のセレモニーに全て対応しなければいけないため、高度なサイズの可変性が求められた。同時に、現場での限られた時間内で設営し、片付けなければならないため、組み立てと撤去の簡便性も求められた。さらに、短期間でさまざまな確認を経て、カメラテストなどに合格する必要もあった。こうした多くの制約を全て解決すべく、基本単位モジュールに基づくデザインが提案された表彰台であったが、さらに今回の東京2020大会は、コロナ禍による予期せぬ1年の延期、そして「ソーシャルディスタンスの確保」という、当初の想定にはなかった要件が新たに追加された。

 こうした目まぐるしく変化する状況、後から次々に増えてくる設計要件に対して、可能な限り柔軟に応えようと試みつつ、同時に、ブレない首尾一貫性を確保しようと、プロジェクトチームは努めてきた。その中で、最初から最後まで徹底徹尾「ゴミにしない、ゴミを出さない」ことを絶対条件として維持したことが、後に「環デザイン」、そして「リープサイクル」と名付ける新たな循環型設計研究の着想へとつながっていったのだ。その詳細については、次回の連載で紹介したい。 (次回へ続く

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Profile

田中浩也

田中浩也(たなかひろや)
慶應義塾大学KGRI 環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター長
慶應義塾大学 環境情報学部 教授

1975年 北海道札幌市生まれのデザインエンジニア。専門分野は、デジタルファブリケーション、3D/4Dプリンティング、環境メタマテリアル。モットーは「技術と社会の両面から研究すること」。

京都大学 総合人間学部、同 人間環境学研究科にて高次元幾何学を基にした建築CADを研究し、建築事務所の現場にも参加した後、東京大学 工学系研究科 博士課程にて、画像による広域の3Dスキャンシステムを研究開発。最終的には社会基盤工学の分野にて博士(工学)を取得。2005年に慶應大学 環境情報学部(SFC)に専任講師として着任、2008年より同 准教授。2016年より同 教授。2010年のみマサチューセッツ工科大学 建築学科 客員研究員。

国の大型研究プロジェクトとして、文部科学省COI(2013〜2021年)「感性とデジタル製造を直結し、生活者の創造性を拡張するファブ地球社会」では研究リーダー補佐を担当。文部科学省COI-NEXT(2021年〜)「デジタル駆動超資源循環参加型社会共創拠点」では研究リーダーを務めている。

文部科学省NISTEPな研究者賞、未踏ソフトウェア天才プログラマー/スーパークリエイター賞をはじめとして、日本グッドデザイン賞など受賞多数。総務省 情報通信政策研究所「ファブ社会の展望に関する検討会」座長、総務省 情報通信政策研究所 「ファブ社会の基盤設計に関する検討会」座長、経済産業省「新ものづくり検討会」委員、「新ものづくりネ ットワーク構築支援事業」委員など、政策提言にも携わっている。

東京2020オリンピック・パラリンピックでは、世界初のリサイクル3Dプリントによる表彰台制作の設計統括を務めた。


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