未来は予測できないから、何でも作れるようにする! FabLab流の教育とビジネス観Fab9実行委員長 田中浩也氏インタビュー(1/4 ページ)

未来は完全に予測できない。「流行に乗る」「先を見越して無駄なく行動する」のではなく、不確かな未来に備え、モノを作る力を磨くこと。それがFabLabの考えだ。

» 2013年10月11日 13時25分 公開
[高須正和/ウルトラテクノロジスト集団 チームラボ,MONOist]

 2013年8月21〜27日の7日間、市民工房ネットワークの「FabLab」(ファブラボ)のマスター(FabLabを運営する人)たちが集まる「第9回 世界FabLab代表者会議」(Fab9)が横浜で開かれた。39カ国から250人が集った。今回のFab9は、一体何を残したのか。

 FAB9実行委員長で慶應義塾大学環境情報学部准教授の田中浩也氏に、Fab9のために特設された巨大モノづくり施設「Super FabLab」にてインタビューした(関連記事:「世界FabLab代表者会議Fab9レポ【前編】」)。

田中浩也氏。Super Fablabにて。

FabLab運営者たちのエネルギー

(以下、敬称略)

高須 Fab9を終えて、まず印象に残ったことは何ですか?

田中 Fab9は世界のFabLabマスターが集まって、1週間ひたすら、会議とモノづくりを続けるというクリエイティブ・サマーキャンプ、もしくは集中強化合宿です。

 FabLabの人たちには、やはり「アイデアから具現化まで」のすごいスピード感があります。昼に皆でコーヒーを飲みながら「足りない部材があるなー」と話していると、その夜にはレーザーカッターでその部材が作られていたりします。そのような、アイデアを具現化する反射神経のよさや、彼らの持つエネルギーを共有する場を日本で持てて良かったです。そのエネルギーに“感染”した人も多かったんじゃないでしょうか。

 1週間、同じ場所で同じメンバーが、直接顔を合わせるということが大事なんです。ロックフェスで会場に集まるのと同じ感覚であり、普段のビデオ会議ではできないような(異国のFabLabのメンバー同士では、普段はビデオ会議システムで会話する)、エネルギーの共有ができます。1つの共有空間で出会い、顔見知りになった人たちの信頼感も大事にされます。

 今回の参加者はロシアから来た政治家や、オランダから来た74歳のおじいちゃんまでさまざまな人がいましたが、印象に残っている人たちは、いずれも「勢い」がありました。元気がある人や、よく分からない(?)感じのエネルギーを持った人ですね。

高須 「勢い」のある人とは、具体的にはどんな感じですか?

田中 いっぱいいるんですが、特に3人を挙げるとすれば……、1人目は、何でも作ってしまう、ロシアの15歳の天才ハッカー、デミトリくん。お父さんと一緒に参加していて、15歳にして、既に多くの人に電子工作を教える立場だそうです。彼はFab9の最終日に行われた「廃品を楽器に改造して演奏するイベント」に参加していたのですが、4人組バンド「クレイジーロシアン」を結成し、「信号機をハック(Hack)してバスドラムとして鳴らす楽器」を作っていました。ハックしようと思ったきっかけは「信号機に足をぶつけて痛かった。悔しいからモーターを付けて開閉するようにして、楽器に改造してやった」。よく分からないですよね……。こういう人が「天才」なんじゃないかな(笑)。深夜までずっと作業していましたし。

 他にもタイプライターを改造したり、電話機を改造したり、ほぼ毎晩このSuper FabLabで何かを作っていましたね。「クレイジーロシアン」の楽器のほとんどは彼が作ったモノでした。彼から、「技術を皆に好きになってもらうにはどうすればいいか?」という質問をされたけど、こっちが聞きたいぐらいですね……。

信号機をハックした楽器を製作中のデミトリくん。

田中 2人目は青年海外協力隊(JICA)でフィリピンのボホール島でFabLabを作ろうとしている医療デザイナーの徳島泰くん。ボホール島って、何もないへき地ですよ。そんなところにFabLabを作って、3Dプリンタの材料になるフィラメントを、ペットボトルを溶かして作ろうとしているんです。3Dプリンタ用のフィラメントはかなり精度が必要なので、精度が満たなければ編み物にするとか。そのようなリサイクルとクリエイティブを組み合わせたプロジェクトを立ち上げようとしているそうです。

 最初、JICAの人たちは誰もFabLabのことを知らなかったようです。そこで彼は「FabLabとはどういうものか」というプレゼンをJICAで何度も行い、結果としてJICAの中でもFabLabの理解が進んできたということです。それが今回の後援やシンポジウムへの登壇という形にまでつながってくれて、本当にうれしかったですね。FabLabの原点は、やはり「国際協力・国際開発」ですから、こうした動きをしてくれる日本人がいるのは素晴らしいことだと思っています。

 3人目は今回のSuper FabLabに持ち込まれた大型木工用CNCマシン「SHOPBOT」のケアをずっとしていた秋吉くんとそのチーム。SHOPBOTは注文すると、完成品ではなく、バラバラのキットが到着します。組み立てに2週間かかるし、いきなり使えるわけではなくて、ちょっとノウハウが必要です。そういうわけで、ずっとSHOPBOTの世話を焼いてくれていたのです。彼はSHOPBOT社から認定されて「SHOPBOT Guru」(達人)の称号を持っています。

SHOPBOT Guruの秋吉くん(右)、田中氏(中央)、Fablabのドキュメンタリー映画を撮影しているイェンスくん(左)

田中 FabLab代表者会議に初めて参加した人は、びっくりして圧倒されている間に終わっちゃうことも多いです。周りに目を配る余裕がなかったような人にとっても、この3人は目立つ存在だったでしょうね。あくまで僕の目線ですが。

高須 実際に手を動かしたり、人を動かしたりしていた人が目立ったという印象ですね。

田中 そうですね。

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