サステナブルなモノづくりの実現

3Dプリンタだから実現できた東京五輪表彰台プロジェクトとその先【後編】未来につなげるモノづくり(1/4 ページ)

本来ゴミとして捨てられてしまう洗剤容器などの使用済みプラスチックを材料に、3Dプリンティング技術によって新たな命が吹き込まれた東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(東京2020大会)表彰台。その製作プロジェクトの成功を支えた慶應義塾大学 環境情報学部 教授の田中浩也氏と、特任助教の湯浅亮平氏に表彰台製作の舞台裏と、その先に目指すものについて話を聞いた。

» 2021年08月16日 10時00分 公開
[八木沢篤MONOist]

 本来ゴミとして捨てられてしまう洗剤容器などの使用済みプラスチックをリサイクルプラスチック材料として再生し、3Dプリンティング技術によって新たな命が吹き込まれた東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(東京2020大会)表彰台。デザインを手掛けた美術家の野老朝雄氏とともに、表彰台の製作プロジェクトを成功に導いたのが、慶應義塾大学 環境情報学部 田中浩也研究室を中心とするメンバーだ。

東京2020大会表彰台プロジェクトの成功を支えた慶應義塾大学 環境情報学部 田中浩也研究室に話を聞いた。写真左から特任助教の湯浅亮平氏、教授の田中浩也氏 東京2020大会表彰台プロジェクトの成功を支えた慶應義塾大学 環境情報学部 田中浩也研究室に話を聞いた。写真左から特任助教の湯浅亮平氏、教授の田中浩也氏 [クリックで拡大]

 【前編】では、教授の田中浩也氏と、特任助教の湯浅亮平氏に、東京2020大会表彰台プロジェクトの製作過程とその試行錯誤の取り組みについて話を聞いた。

 今回お届けする【後編】では、東京2020大会表彰台プロジェクトのその先に何を思い描いているのか、田中浩也研究室の次なる挑戦にフォーカスした。

東京2020大会の開催を迎えた今、次に何を目指そうとしているのか

 2021年8月8日の閉会式をもって東京2020オリンピック競技大会は終了し、同年8月24日からパラリンピック競技大会が始まる。

 今大会は自国開催ということもあって、日本人選手たちも大活躍し、表彰台がテレビ中継の画面に映し出される機会がたびたびあった。コロナ禍で1年間の延期を余儀なくされ、開催そのものが危ぶまれただけに、あらためて日の目を見ることができ、東京2020大会表彰台プロジェクトの関係者もほっとしていることだろう。

使用済みプラスチックを材料に3Dプリンタを活用して製作した東京2020大会の表彰台 使用済みプラスチックを材料に3Dプリンタを活用して製作した東京2020大会の表彰台。写真はパラリンピック競技大会用の表彰台となる (C)Tokyo2020 [クリックで拡大]

 【前編】でお伝えした通り、既に約1年前の2020年6月の時点で全98台の表彰台は完成していたわけだが、東京2020大会表彰台プロジェクトをサポートしてきた田中浩也研究室は、この1年間をどのような思いで過ごしていたのだろうか。そして、表彰台プロジェクトのゴールでもある東京2020大会の開催を迎えた今、次に何を目指そうとしているのか。

東京2020大会表彰台に用いられたパネル。全98台の表彰台を製作するために約20日間で7000枚を3Dプリンタで量産した 東京2020大会表彰台に用いられたパネル。全98台の表彰台を製作するために約20日間で7000枚を3Dプリンタで量産した [クリックで拡大]

 田中氏は「今回の東京2020大会表彰台プロジェクトは、3Dプリンタで、リサイクル材料で、非常に難易度の高いデザインに挑戦し、そのパネルを約20日間で7000枚量産して、98台の表彰台を作ったという、いわば世界最先端の取り組みといえる。その一方で、3Dプリンタの世界はとても進化のスピードが速いため、1年間の延期によって、われわれが取り組んできたことの新規性が失われてしまうのでは? との思いもあった。だが、実際にはそんなこともなく、むしろその間に『バーゼル条約(Basel Convention:有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約)』の改正などもあって、世の中の環境問題やリサイクルに対する意識がより一層高まってきたタイミングで、お披露目する機会を得ることができた。そして、その間、われわれ自身もこの経験を基に、次のコンセプトを考えることができた」と話す。

【参考】東京2020大会表彰台プロジェクトにおける田中浩也研究室の取り組みをまとめたムービー
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