3Dプリンタを活用したリープサイクルの実現を象徴する東京2020大会表彰台は、大会終了後、まず、そのままの形で使われるリユースの方向性での活用に向けた議論が進められているという。
そして、その一方で、田中氏らはリープサイクルのコンセプトや社会実装に向けて取り組むべきことなどを探求しつつ、表彰台のパネルを粉砕し、もう一度3Dプリンタの材料として再生(リペレット化)し、別のモノを作り出す方向性(3Dプリンタを活用したリープサイクルの方向性)や、リユースに近いが、3Dプリンタを用いないリープサイクルの在り方を探るべく、表彰台のパネルを組み替えるなどして、別の新たな価値を生み出す方向性などの検証を進めている。
全く別のモノを作り出すというアプローチの検証として、P&Gジャパン、慶應義塾大学、エス.ラボ、丹青社、テラサイクル、ナノダックスは、東京2020大会表彰台のパネルを製造したものと同じリサイクルプラスチック材料と、エス.ラボの装置(材料押し出し式3Dプリンタ)を用いて、聾学校向けにフェイスシールド(のフレーム)を1万個量産し、実際に寄贈したという(この実践的な取り組みは、表彰台用のパネル製造が完了した翌週すぐに開始され、マテリアルリサイクルと3Dプリンタの融合による柔軟な量産体制、デジタルモノづくりの新たな可能性を証明する事例にもなった)。
一方、表彰台のパネルデザインをそのまま生かしたアプローチとして、音響壁を提案。これは野老氏がデザインした東京2020大会エンブレムを発展させて生み出された3次元立体レリーフ形状が持つ、“穴の角度がそれぞれ異なる”という特性を生かしたもので、このパネル形状により音の拡散効果が得られ、美術館などの静かな空間を作り出すことが期待される。こちらはどちらかというとリユースに近いアプローチといえるが、部材を組み替えるだけで新たな価値を創出するという意味で、非常に興味深い取り組みでもある。
今後、リープサイクルの定義そのものがさらに発展的変化を遂げる可能性を秘めているが、その活用の方向性について、田中氏は「実際に、リープサイクルが実現する世界では、洗剤容器などのように生活用品だったものが、次第に大きなモノへと生まれ変わり、最終的には都市空間で長く使われるモノ、例えばベンチや遊具などへと変化していくのではないかと考えている。都市空間のクオリティを高めていくような使われ方につながっていくのではないか」と予想する。
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