ローランド ディー. ジー. 主催イベント「monoFab Experience Day」の特別講演に登壇した慶應義塾大学 環境情報学部 准教授 田中浩也氏の講演から、教育における3Dプリンタの可能性、3Dプリンタとインターネットによる新しいモノづくりの在り方について紹介する。
ローランド ディー. ジー.(以下、ローランドDG)は2014年10月16〜17日の2日間、同年9月に世界同時発売した3Dプリンタ&切削加工機「monoFab(モノファブ)シリーズ」のリリースを記念して、「monoFab Experience Day」を同社東京クリエイティブセンターで開催した(関連記事:未来の机上工場を実現する小型3Dプリンタ「ARM-10」と切削加工機「SRM-20」)。
同イベントでは、monoFabシリーズとして、光造形法(プロジェクタによる面露光方式)を採用した同社初の3Dプリンタ「ARM-10」と、ロングセラーのMODELA「MDX-20」をフルモデルチェンジした3次元切削加工機「SRM-20」の2機種の紹介・体験セミナーの他、有識者を招いた特別講演が行われた。
本稿では同年10月17日に行われた慶應義塾大学 環境情報学部 准教授 田中浩也氏による特別講演「教育現場での3Dプリンタ活用」の中から、教育における3Dプリンタの可能性、3Dプリンタとインターネットによる新しいモノづくりの在り方について紹介する。
日本での「FabLab(ファブラボ)」普及の立役者である田中氏は、世界各国の3Dプリンタの利用状況について、「製造現場での活用はもちろんだが、今、世界の教育現場で3Dプリンタがものすごいスピードで普及しつつある」と紹介。日本でも教育現場での3Dプリンタ活用について議論が活発化しつつあり、普及が進んでいくことが予想されるという。
大量生産時代のこれまでの日本の教育は、モノも人材も大量生産方式で「こういうスキルを持った人材が社会には必要だ」という“型”にはめられた教育がなされてきた。しかし、社会環境の変化に伴うビジネスやライフスタイルの多様化、3Dプリンタのようなデジタル工作機械の登場などにより、価値観の変化やモノづくりの在り方などが見直され、教育自体も“個”の創造性を養う方向へとシフトしつつあるという。
そういう中で、3Dプリンタという存在は個人の創造性を刺激するツールとして最適であり、「自分で3Dデータを作って〜、出力して〜が自由にできる。しかも、“失敗しても構わない”という点が非常に教育的にもいい。試行錯誤して、自分の頭の中にあるアイデアをモノの形として表現するのに、これほど適したものはない」と田中氏は説明する。
田中氏は、慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC)にあるメディアセンターに3Dプリンタを6台設置し、学生や教職員が無料で誰でも自由に使える環境を整備。この環境を作ったことで、学生たちが“授業そっちのけ”で自分のアイデアを形にするモノづくりに没頭しているという。
「特に、文系の学生たちが3Dプリンタをはじめとするデジタルツールに興味を持っている。よく、『3Dデータを作るのは難しい』といわれるが、最近は無料のツールも登場し、ネット上でもチュートリアル動画がたくさん公開されている。こうした環境もあり、学生たちは2〜3日勉強するだけで3Dデータを作れるようになってしまう」(田中氏)。今では、iPhoneケースやちょっとしたアクセサリー、便利グッズ・ツールなどを学生たちが自主的に制作。研究室のイスに付けられるフックなどを作り、自分たちの空間をより快適にしていこうという動きも生まれているという。「もちろん、フックはホームセンターに行けば買える。しかし、研究室にあるイスの背もたれの形にぴったりとはまるものはない。3Dプリンタだから“このイス”にぴったりと合う“1点モノのフック”を作ることができるのだ」と田中氏。
他にも、“3Dプリンタ×インターネット”の可能性を示す事例として、学生が親せきの小学生のために作った「三又鉛筆」を紹介。これは書き取りの宿題の労力を軽減するアイデア品で、1回で3回文字を書くことができるシロモノだ。作者の学生は、この作品の3Dモデルデータをインターネット上に公開していたのだが、ある日、米国の小学生から「うちの学校で流行しているよ」と手紙が送られてきたそうだ。米国、フランス、ロシア、ドイツなどでは初等教育の現場に3Dプリンタを導入する動きが進んでいることもあり、このデータをたまたま見つけた米国の少年が学校の3Dプリンタで出力して使ってみたところ同級生にウケて学校中に広まったのだとか。
「このエピソードは、3Dプリンタとインターネットが“掛け合わさる”ことの面白さを示した好例だ。3Dプリンタは数十年前から存在し、過去にも何度かブームがあった。しかし、今とそのころとの大きな違いは“インターネットの普及”だ。3Dプリンタとインターネットが掛け算される領域でこそ、本当に面白いモノが生まれてくるのではないか」と田中氏は説明する。
さらに、三又鉛筆は進化していく。ある作曲家が目を付けて、これを“五又”に変更し、楽譜の五線を簡単に引けるようにしたのだ。このアイテムにより、よいフレーズが浮かんだときに、いつでも五線を引き、音符を書くことができるようになったそうだ。「1つのユニークなアイデアがインターネットを介して、他人の脳を刺激し、また新しいモノがそこから生まれ、派生していく。3Dプリンタとインターネットが合わさることで、こんなことまでも実現可能になってきたのだ」(田中氏)。
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