鎌倉市のみならず、表彰台は全国各地で今も学校や自治体で使用されている。そんな表彰台の実際の使われ方を見ていると、屈強な体つきをした選手たちが、隣り合って手をつなぎ、「せーの!」と大きな声を上げて、全員が同じタイミングで表彰台に登るケースが多い。あるいは、表彰台の上に何十人もの人が登って集合写真を撮るようなケースも多くある。これは人間の本能を考えれば、当然のことと思う。しかし、この結果として、最も速く摩耗し、劣化が進むのは、瞬間的に大きな荷重がかかる表彰台の“天板”部分であることは、説明する必要がないだろう。仮の話ではあるが、もしかすると将来、天板部分が先に劣化して“上に登る”ための台座としての機能が失われることがあり得るかもしれない。そのようなことを先回りして考えたわれわれは、仮に台座としての機能が失われたとしても、この表彰台を廃棄せずに使い続けるための“次の策”を自主検討することにした。
われわれには、今回の表彰台の側面に採用した立体的な3Dプリントレリーフ部分に、音響拡散効果があるのではないかという予想があった。そこで、音響工学を専門とする近畿大学 菅原彬子研究室に、実測とシミュレーションでの検証を依頼した結果、角度の異なる“くぼみ”の部分が効いて、確かに音響を拡散する効果を有することが確かめられた。その成果は国際カンファレンスでも発表されている。この機能によって、いつの日か表彰台のパネル部分が再び“組み替え”られ、音楽室の壁面などに並べられて「再−再活用」される可能性が生まれた(現在は可能性だけを担保してあり、まだ実現はされていない)。
仮に、この“組み換え”が難しい場合には、このパネル一枚一枚を小型のプラスチックシュレッダーに投入して粉砕することも可能だ。粉砕してフレーク状になった材料は、再び3Dプリンタに投入できる。実際、大会本番では使用されなかった試作過程の表彰台パネルが、この方法でコロナ対策のフェイスシールドとして緊急製造されている(詳しくはこちら)。
ここまで述べてきたように、このプロジェクトでは「リサイクルして作ったものを、廃棄せずに使い続けるやり方」を、1つではなく複数の可能性として編み出そうと試みてきた。
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