ディスクリート設計×マテリアルリサイクルによる東京2020表彰台プロジェクト環デザインとリープサイクル(4)(5/5 ページ)

» 2022年10月25日 07時00分 公開
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単に「資源を循環させればよい」という視点からさらに先へ

 こうした背景もあって、現在は、単に「資源を循環させればよい」という視点からさらに先に進み、「どのような」循環を実現することがより好ましいのかという思考が必要とされている。

 持続可能なビジネスモデルイノベーションの研究者であるNancy Bocken(ナンシー・ボッケン)氏は「資源サイクルを、(1)閉じる、(2)遅らせる、(3)狭くするフレームワーク」を発表している(参考文献[1])。このフレームワークでは、単に資源循環や水平リサイクルを進めるという「1次元の軸」だけでなく、第2軸目として「製品の寿命を延ばし、長く使用すること」、そして、第3軸目として「なるべくコンパクトなエリア内で循環させ、輸送量を減らすこと」の2つの新たな軸を加え、全体として3次元立体のスコープの中で戦略を考えることを提案している。製品寿命を延ばすことと、地域内で輸送を少なくすることによって、資源循環は脱炭素化へもつながっていく。

Bocken氏が発表したフレームワークの図を基に筆者が一部改変したもの(原案はRe:Publicによる) 図7 Bocken氏が発表したフレームワークの図を基に筆者が一部改変したもの(原案はRe:Publicによる)[クリックで拡大]

参考文献:

  • [1]Bocken,N.M.P.,de Pauw,I.,van der Grinten,B.,Bakker,C. 2016.“Product design and business model strategies for a circular economy.”

地域型資源循環の実践に向けて

 この図式に当てはめて考えてみれば、東京2020大会表彰台プロジェクトは、洗剤容器という、比較的使用時間が短い“フロー”の物質を、表彰台という今後比較的長く使われるであろう“ストック”の物質(シンボリックなアイテム)へと変化させ、さらにその先の音響拡散壁への展開も可能性として提示したという意味で、長寿命化(2軸目)には貢献するものであった(そして、さらに寿命が長い製品としては、建築や土木があるため、そうした製品へのアップサイクルを今後考察していく必要もある)。

 ただ、他方で東京2020大会表彰台は、国家規模のイベントであったために全国規模の回収を行うことは筋は立つものの、輸送距離は長かった。

 このように考えれば、“全国”を対象に行った東京2020大会表彰台のエッセンス(良い面)を、今度は“自治体”を対象として実装することが期待されるのではないだろうか。その中で、前述した以外にも、細かい改善点を基に新たな仕組みとしてパッケージ化し、社会実装へとつなげていきたい。

 そうした経緯の中、2021年11月より発足したのが、鎌倉市を舞台とした「デジタル駆動超資源循環参加型社会」プロジェクト(共創の場COI-NEXT 地域共創・育成型)である。次回より、このプロジェクトのこれまでの活動成果と今後の展開について述べていきたい。 (次回へ続く

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Profile

田中浩也

田中浩也(たなかひろや)
慶應義塾大学KGRI 環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター長
慶應義塾大学 環境情報学部 教授

1975年 北海道札幌市生まれのデザインエンジニア。専門分野は、デジタルファブリケーション、3D/4Dプリンティング、環境メタマテリアル。モットーは「技術と社会の両面から研究すること」。

京都大学 総合人間学部、同 人間環境学研究科にて高次元幾何学を基にした建築CADを研究し、建築事務所の現場にも参加した後、東京大学 工学系研究科 博士課程にて、画像による広域の3Dスキャンシステムを研究開発。最終的には社会基盤工学の分野にて博士(工学)を取得。2005年に慶應大学 環境情報学部(SFC)に専任講師として着任、2008年より同 准教授。2016年より同 教授。2010年のみマサチューセッツ工科大学 建築学科 客員研究員。

国の大型研究プロジェクトとして、文部科学省COI(2013〜2021年)「感性とデジタル製造を直結し、生活者の創造性を拡張するファブ地球社会」では研究リーダー補佐を担当。文部科学省COI-NEXT(2021年〜)「デジタル駆動超資源循環参加型社会共創拠点」では研究リーダーを務めている。

文部科学省NISTEPな研究者賞、未踏ソフトウェア天才プログラマー/スーパークリエイター賞をはじめとして、日本グッドデザイン賞など受賞多数。総務省 情報通信政策研究所「ファブ社会の展望に関する検討会」座長、総務省 情報通信政策研究所 「ファブ社会の基盤設計に関する検討会」座長、経済産業省「新ものづくり検討会」委員、「新ものづくりネ ットワーク構築支援事業」委員など、政策提言にも携わっている。

東京2020オリンピック・パラリンピックでは、世界初のリサイクル3Dプリントによる表彰台制作の設計統括を務めた。


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