サステナブルなモノづくりの実現
連載
» 2022年11月28日 09時00分 公開

鎌倉市を舞台とした資源循環のカタチ、3つの新たな取り組みの成果とこれから環デザインとリープサイクル(5)(1/3 ページ)

「メイカームーブメント」から10年。3Dプリンタをはじめとする「デジタル工作機械」の黎明期から、新たな設計技術、創造性、価値創出の実践を積み重ねてきたデザイン工学者が、蓄積してきたその方法論を、次に「循環型社会の実現」へと接続する、大きな構想とその道筋を紹介する。「環デザイン」と名付けられた新概念は果たして、欧米がけん引する「サーキュラーデザイン」の単なる輸入を超える、日本発の新たな概念になり得るか――。連載第5回では「鎌倉市を舞台とした『デジタル駆動超資源循環参加型社会共創拠点』プロジェクトのこれまでの成果」について取り上げる。

 「デジタル駆動超資源循環参加型社会共創拠点」プロジェクトは、慶應義塾大学が代表機関となり、幹事自治体として鎌倉市(神奈川県)、参画企業24社(幹事企業:カヤック)、その他参画大学の共創により応募提案した研究プロポーザルが、科学技術振興機構(以下、JST)による「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」の地域共創分野(育成型)として採択され、2021年末から開始された産学官民連携プロジェクトだ。

 構想の発端は、これまでの連載で述べてきた通り、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(東京2020大会)をきっかけに生まれた“市民から使用済みプラスチック製品を集め、大型3Dプリンタを用いて別のものにアップサイクルする”というスキームを、今度は輸送距離をなるべく縮め、地域の中で実証したいと考えたことだった。

 地域を舞台とした資源循環の実験を行うには、自治体との連携が欠かせない。日本ではゴミや資源回収は自治体の責任下にあり、地域の特性や人口に合わせたルールで運営されてきた。2022年4月から「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(プラスチック資源循環促進法)」が施行されたが、その促進のためにも、ますます自治体、企業、市民、大学が連携する必要が生まれている。

 鎌倉市は、人口約17.2万人の“中都市”で、日本のナショナルトラスト運動の発祥の地であるなど、環境共生意識の高い地域として知られている。過去30年間でゴミを60%削減しており、現在も20種類以上の細かな分別回収が実施されていることから、リサイクル率は52.7%(全国平均は20%前後)と高く、これは人口10万人以上〜50万人以下の自治体の中で全国第1位の数字となっている。さらには「リサイクリエーション」という、地域で使われた洗剤詰め替え用パックを回収する活動が2016年から行われている。回収された詰め替え用パックは、「おかえりブロック」と名付けられたレンガ大のプラスチックブロックとなって、回収協力者に提供される。“日本初”のFabLab(ファブラボ)である「ファブラボ鎌倉」もあり、2018年には鎌倉市として「Fab City宣言」も行っている。地域内資源循環の実験を行うための土壌が、鎌倉市には全てそろっているのだ。

3つの新しい取り組み

 資源循環の全体のフローを考えれば、“集めた材料から3Dプリンタでモノを作る”のは、その中の1つの過程(しかも後半)にすぎない。今回、新たに鎌倉市で実験を立ち上げるに当たって、フロー全体を見直しつつ、特に東京2020大会の際には関与できなかった次の3つのポイントに取り組みたいと考えた。

  • (1)資源回収ボックスのリデザイン(Redesign)
  • (2)資源循環ルートの見える化
  • (3)街の新アイテムの開発

(1)資源回収ボックスのリデザイン(Redesign)

 近年、「資源回収ボックス」と呼ばれる回収箱が、あちこちで見られるようになってきた(おそらく読者の皆さんの身近にもあるのではないか?)。ただ、ぱっと見で「ゴミ箱」と見分けがつかないことが多く、張り紙で「これはゴミ箱ではありません!」と書かれている様子も頻繁に目にする。しかし、どんなに張り紙をしたとしても、カタチが類似している限り、ゴミ箱と資源ボックスの区別がつきにくいことは永遠に変わらない……。最近では、缶やペットボトルなどの回収のため、投入用の穴を“下向き”にして、上から簡単にモノを投げ入れられないようにする工夫が施されているものもある。このような工夫ももちろんだが、筆者は以前から「そもそも“回収ボックスのたたずまい”自体を、“箱”ではない何か別のものへとずらす必要があるのではないか」と考えていた。こうしたデザインは、人々の意識変革/行動変容にもつながっていくはずだ。

 街の中で、人が丁寧に、気持ちを込めて「モノを投函(とうかん)」する“受け皿”となっている物体がある。それは「郵便ポスト」だ。それをヒントに、筆者らは、これまで「回収ボックス」と呼ばれてきたものを、“(上からモノを投げ込むような)箱”ではなく、むしろ“(丁寧にモノを差し込むような)ポスト”のように、リデザインしたらよいのではないか? と考えた。そこで生まれたのが「しげんポスト」(図1)である。赤色の郵便ポストと対比して、しげんポストは緑色を基調としたカラーとし、受け口には雨避けのフードを設け、屋外にも設置できる仕様とした。

「しげんポスト」 図1 「しげんポスト」(3Dプリント設計:慶應義塾大学 荒井将来)/企画制作:カヤック+慶應義塾大学+鎌倉市+デジタル駆動超資源循環参加型社会共創コンソーシアム[クリックで拡大]

関連リンク:

⇒ しげんポスト


 また、よく見掛ける資源回収ボックスは、段ボール製のものや木製のものが多く、店舗内には設置できるが、雨にぬれる屋外設置には大抵不向きだ。そこで、われわれは大型3Dプリンタを用い、植物由来の「DURABIO(デュラビオ)」(三菱ケミカル製)や、PLA(ポリ乳酸)などのバイオプラスチックを用いて、屋外使用にも耐え得るしげんポストを完成させた。透明の外観は、“資源をためている様子”を外からでも見えるようにするために効果的だ。しげんポストは、広告の賞である2022年「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」のクリエイティブイノベーション部門において、ファイナリスト賞を受賞することができた。

 現在、このしげんポストは、鎌倉市役所、リサイクリエーション 慶應鎌倉ラボ、カヤックの3箇所に設置されており、シャンプーや洗剤などの詰め替え用パックを集めている。

 なお、このポストには、鎌倉市で2021年から運用されている地域デジタル通貨「まちのコイン『クルッポ』」が連動している。資源を投函すれば、地域デジタル通貨をもらうことができ、市内の他のイベントや店舗などでためた通貨を使うことが可能だ。さらに今後を見据え、しげんポストに重量センサーを追加する研究にも取り組んでいる。成功すれば、“集まった資源の量”をWebサイト上でリアルタイムに見える化することが可能になる。それが次の(2)資源循環ルートの見える化にもつながっていく。

2022年7月4日に開催された「しげんポスト」記者発表会の様子 図2 2022年7月4日に開催された「しげんポスト」記者発表会の様子(写真左から、鎌倉市長の松尾崇氏、筆者、カヤック 西植弘氏)[クリックで拡大]
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