鎌倉市のしげんポストで回収された詰め替え用パックは、(1)再び詰め替え用パックへと循環させる研究に使用されるルートと、(2)街で用いる新しいアイテムへと大型3Dプリンタを通じてアップサイクルする(作り替える)ルートの2つで運用されている。
大型3Dプリンタを備えた筆者らのサテライト研究ラボ(リサイクリエーション 慶應鎌倉ラボ)は2022年6月に開設し、そこで、街の人たちとの2カ月に一度のワークショップなどを交えながら、“リサイクル材料を使って生み出すべき、新たな街のアイテムの開発”に取り組んできた。
同ラボでは、複数のリサイクル材料を組み合わせることで、プラスチックの組成を高耐久化、長寿命化していくための研究も行っている。例えば、洗剤詰め替え用パックから椅子を作ろうとしても、そのままでは柔らか過ぎて十分な強度が出せないが、そこに、冷蔵庫や洗濯機など廃棄された家電製品から取り出された再生プラスチックを適切な量、混合することで“やや硬め”にすることが可能だ。この「リサイクルブレンド材料」を用いれば、人が座れる強度を備えた椅子を作り出すことができる(図4)。
複数の材料をブレンドする技術を深めながら、そして、市民からの声を聞きながらアイデアを出し、今年(2022年)に試作開発したのは「鎌倉市の輪郭をトレースして作ったプランター」(図5)などだ。
こうした試作品は、街のイベントなどの際に、試験的に使われている。また、プラスチック以外の材料も使っていく予定だ。例えば、地域のカフェから回収したコーヒーかすを適量ブレンドしたプラスチックを用いて、鎌倉市内に常設するベンチを製作し、順次設置する計画がある(図6)。さらに、これらの製作物にはQRコードを付与し、そこから、製作に用いた材料成分やその由来(どこから来たか)などの情報を読み取れるようにしている。
ただ、プランターやベンチなどの常識的な“街のアイテム”にとどまることなく、さらに、地域から深い固有のニーズを抽出し、これまでにはあまり思い付くことのなかったような、“街の新アイテム”を開発できないかと考えている。2カ月に一度のワークショップ(動画3)がそのための“場”になっており、画期的なアイデアがすぐに見つかるわけではないものの、こうした活動を地道に繰り返していくことで、街が本当に求めているものの探索が進んでいく感覚を得ている。
次回は、これまでの議論をまとめ、筆者が提唱したい「環デザインとリープサイクル」という、“より良い循環”を目指していくための新たなコンセプトを整理したい。 (次回へ続く)
田中浩也(たなかひろや)
慶應義塾大学KGRI 環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター長
慶應義塾大学 環境情報学部 教授
1975年 北海道札幌市生まれのデザインエンジニア。専門分野は、デジタルファブリケーション、3D/4Dプリンティング、環境メタマテリアル。モットーは「技術と社会の両面から研究すること」。
京都大学 総合人間学部、同 人間環境学研究科にて高次元幾何学を基にした建築CADを研究し、建築事務所の現場にも参加した後、東京大学 工学系研究科 博士課程にて、画像による広域の3Dスキャンシステムを研究開発。最終的には社会基盤工学の分野にて博士(工学)を取得。2005年に慶應大学 環境情報学部(SFC)に専任講師として着任、2008年より同 准教授。2016年より同 教授。2010年のみマサチューセッツ工科大学 建築学科 客員研究員。
国の大型研究プロジェクトとして、文部科学省COI(2013〜2021年)「感性とデジタル製造を直結し、生活者の創造性を拡張するファブ地球社会」では研究リーダー補佐を担当。文部科学省COI-NEXT(2021年〜)「デジタル駆動超資源循環参加型社会共創拠点」では研究リーダーを務めている。
文部科学省NISTEPな研究者賞、未踏ソフトウェア天才プログラマー/スーパークリエイター賞をはじめとして、日本グッドデザイン賞など受賞多数。総務省 情報通信政策研究所「ファブ社会の展望に関する検討会」座長、総務省 情報通信政策研究所 「ファブ社会の基盤設計に関する検討会」座長、経済産業省「新ものづくり検討会」委員、「新ものづくりネ ットワーク構築支援事業」委員など、政策提言にも携わっている。
東京2020オリンピック・パラリンピックでは、世界初のリサイクル3Dプリントによる表彰台制作の設計統括を務めた。
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