本連載の本題からそれてしまうが、「写真を撮る」ことは中国ビジネスではとても重要だ。「鏡筒」のエピソードでも、写真があったから中国人技術リーダーの言うことが間違っていると筆者が言い返せたのだ。「治具」のエピソードにおいても写真を送ってもらえば、ほとんどのことは理解できてしまう。
また、量産後に不良品が発生した場合、自分が量産前に工程確認した際の製造現場の写真はとても役に立つ。訪問前に原因の目星を付けられるからである。中国にある部品メーカーへの訪問は、特に日本からの出張であった場合には時間が限られるので、工程確認した際の写真はとても有用である。
また、中国人との会話は、日本語通訳がいても通じているのは約80%といってよい。日本語通訳は通訳のプロではなく、日本語の上手な中国人であるからだ。例えば、製造現場で問題点を見つけ、それを指摘するために中国人の日本語通訳に対し、以下のように言葉で伝えたとする。
製造現場の台車の一部が大きく凹んでいた。部品を置くと斜めになるかもしれないので、修理するか、別のものに変更してほしい
このとき、台車の写真があるのとないのとでは圧倒的に伝わり方が違う。また、通訳が「凹む」を「くぼむ」「へこむ」のどちらで表現するかでも伝わり方が変わってくる可能性もある。製造現場の設備や大きな治具などは、打ち合わせ場所に持ってこられない。そのようなときに写真はとても重宝するのだ。 (次回へ続く)
オリジナル製品化/中国モノづくり支援
ロジカル・エンジニアリング 代表
小田淳(おだ あつし)
上智大学 機械工学科卒業。ソニーに29年間在籍し、モニターやプロジェクターの製品化設計を行う。最後は中国に駐在し、現地で部品と製品の製造を行う。「材料費が高くて売っても損する」「ユーザーに届いた製品が壊れていた」などのように、試作品はできたが販売できる製品ができないベンチャー企業が多くある。また、製品化はできたが、社内に設計・品質システムがなく、効率よく製品化できない企業もある。一方で、モノづくりの一流企業であっても、中国などの海外ではトラブルや不良品を多く発生させている現状がある。その原因は、中国人の国民性による仕事の仕方を理解せず、「あうんの呼吸」に頼った日本独特の仕事の仕方をそのまま中国に持ち込んでしまっているからである。日本の貿易輸出の85%を担う日本の製造業が世界のトップランナーであり続けるためには、これらのような現状を改善し世界で一目置かれる優れたエンジニアが必要であると考え、研修やコンサルティング、講演、執筆活動を行う。
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◆著書
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