このような自己判断の多い中国人だが、決して悪気があるわけではないので、良い関係を保ち続けるためには、日本人が適切に対応していく必要がある。
前者の「鏡筒」のエピソードは、実は日本人が最も苦手とする対応が必要と考える。日本人には「一任する仕事のやり方」をする人が多く、この話の場合では「(原因が分かっていないことが)分かりました。私の要望は鏡筒表面に痕がないことですので、量産までには対処しておいてください」と言い、その場での原因の究明は妥協して諦めてしまい、その後の対処を一任してしまう人が多い。
中国でそれをしてしまうと、間違いなく量産においても痕は残ったままになっている。原因は妥協せずに究明し、必ずそれをつぶすことが大切である。希望する結果だけを伝えて、原因究明を一任することがあってはならない。
しかし、日本人は謙虚な人種であるため、中国人の強い自己主張や自己判断に根負けしてしまうことがあるのだ。よく筆者の研修の参加者から、「あまりしつこかったり深入りしたりすると、失礼にあたらないか?」と質問される場合がある。そのようなことは決してない。
中国人だって、自分が推定した自己判断であることは分かっている。その推定による回答で不十分ならば、妥協せずにちゃんとその旨を伝える必要がある。例えば、中国人が一般のモノを買うときの価格交渉はすさまじいもので、客は自分の買いたい価格を、店員は売りたい価格をお互いにケンカ腰に言い合うのである。本当に欲しい要望をちゃんと伝えず、簡単に妥協してしまうと、中国人の方が拍子抜けしてしまうくらいだと思ってよい。
後者の「治具」のエピソードでは、「治具は、本当にできているかな?」という不安がわずかにあったにもかかわらず、技術リーダーが治具担当に確認している声まで筆者は聞いたため、「まず、大丈夫であろう」と自己判断してしまっていたのだ。これ以上しつこく聞くことに、妥協してしまった結果ともいえる。この筆者の自己判断は、中国人技術リーダーのしたことと同じであったと思う。技術リーダーを非難できたものではない。今であれば、絶対に次の対応をしていたと考える。
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