このような技術リーダーのいいかげんな回答は、中国での一般的な仕事でもよくあることだ。別のエピソードを紹介する。
筆者が中国駐在中に、ある治具を中国の部品メーカーに作製してもらったときのことだ。その部品メーカーを訪問して打ち合わせを行い、治具を作製しようということになった。作製期間の1カ月が過ぎ、訪問前日に治具ができているかの確認のため電話をしたところ、この部品を担当する技術リーダーからは「問題ない」との回答があった。
筆者の事務所のある上海からこの部品メーカーのある蘇州までは、クルマで約2時間の道のりである。部品メーカーに到着し、会議室に通された。すると、数分後にA4の用紙を1枚持った中国人技術リーダーが現れたのだ。この人は日本語がとても上手だったので、筆者とは日本語通訳を介さないで仕事をしていた。しかし、その顔はどこか申し訳なさそうにしていた。
技術リーダーは、A4の用紙をテーブルにひらりと置き、「今、ここまでできている」と言ったのだ。そのA4の用紙の真ん中あたりには、治具のイラストが小さく描いてある。どうやら3D CADで描いたものをプリントアウトしたようだ。
「治具は?」と質問すると、「今はこのイラストしかない」と彼は言う。つまり、何もできていなかったのだ……。
技術リーダーは「治具担当は『問題ない』と言った」と弁明し、謝るそぶりを全く見せない。イラストならメールで送ってもらえば十分に確認できる。筆者はあきれてしまうと同時に、かなり怒ってしまった。しかし、できていなければどうしようもない。打ち合わせは5分で終わり、また2時間かけて上海まで戻ることになった。
この前日の技術リーダーとの電話の内容は次の通りである。
筆者 治具はできていますか?
技術 ちょっと待って、確認します。
技術リーダーが治具担当に大声で確認している声が電話越しに聞こえる――。
技術 治具はできている?
担当 問題ないです!
その後、技術リーダーは電話で次のように言った――。
技術 問題ない、できている。明日の確認は大丈夫!
※「技術」とは「技術リーダー」のことだ。
こうして、筆者は安心して次の日に訪問することになったのだ。しかし、その結果は前述のありさまであった。この技術リーダーは治具担当の「問題ないです!」の言葉を、「治具そのものができている」と自己判断していたのであった(しかし、治具担当の「問題ない」は、何が問題なかったのかはよく分からない……)。
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