東京大学は、染色体の等分配に働くDNA領域セントロメアの空間配置を分散型パターンに制御する因子群を発見し、空間配置の分子メカニズムを解明した。
東京大学は2022年7月29日、染色体の等分配に働くDNA領域セントロメアの空間配置を分散型パターンに制御する因子群を発見し、空間配置の分子メカニズムを解明したと発表した。東京理科大学などとの共同研究による成果となる。
セントロメアは染色体の交差部位で、染色体の等分配に働く重要なDNA領域だ。細胞分裂では、セントロメアが引っ張られて二等分され、その後に染色体群が脱凝縮して細胞核が構築される。その際、セントロメアが片方に偏在するとRabl構造の細胞核になり、偏在が解消されるとnon-Rabl構造という分散型の細胞核になる。
今回の研究では、ヒトと同様に通常はnon-Rabl構造のシロイヌナズナが、ある変異体ではRabl構造を取ることが分かった。その変異体は、染色体凝縮に関与するタンパク質のコンデンシンII(CII)が欠損した変異体と、核膜を貫通して存在するタンパク質の細胞核・細胞骨格連結複合体(LINC)の欠損変異体の2つだ。
CIIとLINKは細胞核内で複合体(CII-LINC複合体)を形成し、non-Rabl構造を作成するために働くことが分かった。一方で、核膜の裏打ちタンパク質CRWNが欠損した変異体では、セントロメアの動きが活発化していた。
これらの結果から、セントロメアが分散型のnon-Rabl構造のような空間配置になるには、細胞分裂後期に両極に偏って分布するセントロメアがCII-LINC複合体により細胞核内に分散すること、細胞核の形成後にCRWNによって分散配置が安定化するという2ステップで成立することが分かった。
また、正常なシロイヌナズナとRabl構造の変異体の遺伝子発現を解析した。その結果、両者の遺伝子発現に差はなく、セントロメアの空間配置の変化は遺伝子発現に影響を与えないことが判明した。一方で、DNA損傷ストレスを与えると、変異体は正常体よりも成長速度が遅くなった。このことから、生物がDNA損傷ストレスに対応するには、細胞核内の適切なDNAの空間配置が必要であることが示唆される。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.