Shell Launcherは、ユーザーにあらかじめ決められたアプリケーションのみが起動する環境を提供します。この環境ではスタートメニューやタスクバーが使用できなくなるため、アプリケーションに用意された機能のみをユーザーに使用させることができます。これにより、ユーザーによるWindowsの設定変更やファイル操作などを予防することが可能です。Microsoftは2020年5月に、Shell Launcher V2を提供開始し、UWPアプリの起動やマルチappキオスクなどの新しいシナリオに対応しました。
Shell Launcher V1/V2ともに全てのWindows IoT Enterpriseで使用することができますが、Windows 11 IoT Enterpriseにおいてマルチappキオスクはサポートされません。これは一時的な制限事項であり将来的には解消する見込みです。
Write FilterはWindowsシステムやアプリケーション、ユーザーが行うディスクへの書き込みをフィルターする機能です。Write Filterが有効な環境では、本来ディスクへ行われる書き込みはオーバーレイ領域と呼ばれる特別な領域に書き込まれます。ディスクへの書き込み機会が低減するため、フラッシュストレージの摩耗や、システムの設定の損失や破損のリスクを低減させることが可能です。バージョン21H2の統合書き込みフィルターには3つの新しい機能が追加されました。
1つ目は「読み取り専用メディアモード」です。新しく用意されたオプションである“set-rom-mode”を有効にすると、Windowsシステムパーティションを含む任意のパーティションを読み取り専用メディア(領域)に格納したり、予期せぬシャットダウンなどによる破損リスクを大幅に下げたりすることが可能になります。また、読み取り専用メディアモードによりHORMの信頼性も高まります。
注意いただきたいのは、Microsoftの公開情報(2022年2月時点)には「物理記憶装置への全ての書き込みと、ファイルの内容に影響を与えないメタデータの書き込みを削除できます」とありますが、手元の環境で検証した限りにおいては、単に読み取り専用メディアモードを有効にしても、ストレージへの書き込みがなくなるわけではないようです。このモードは記憶領域の一部もしくは全部を読み取り専用にできるストレージと組み合わせて使用いただくことが前提であり、通常のストレージ(読み書き可能なメディア)を完全な読み取り専用として使用できるものではないと考えられます。
2つ目は「フルボリュームのコミット」です。統合書き込みフィルターで保護された領域への書き込みは、ディスクではなくオーバーレイ領域へリダイレクトされ、これをディスクへ反映させる工程をコミットといいますが、従来のコミットはファイル単位で行う必要がありました。読み取り専用メディアモード中のみ、という条件は付きますが、“overlay commit”オプションはUWFで保護されたボリュームのオーバーレイ全体を一度に物理ディスクにコミットします。
3つ目は「ディスクオーバーレイのスワップ」です。これまで統合書き込みフィルターのディスクモードを使用するとオーバーレイ領域はC:ドライブに作成されていましたが、この場合(重要なデータが存在する)システムパーティションへの書き込みが発生するため、本来の書き込みフィルターの目的に反した結果となってしまうこともありました。新しいオプション“create-swapfile”によりオーバーレイ領域を任意のドライブ、例えば十分に容量のある別のHDDに移動させられます。
これらの新しいオプションはシステム運用の柔軟さを高めるとともに、Windows Embedded Standard 7で使用できたEnhanced Write Filterに近い挙動の実現を目指したもののようです。新しい統合書き込みフィルターはバージョン21H2の全てのWindows IoT Enterpriseで使用可能です。
次回は、バージョン21H2の新しい機能であるソフトリアルタイムについて、実際の設定や挙動なども含め解説する予定です。
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