東京大学は、理論進化学の数理手法を基盤として学習と進化の関係を扱う数理手法を新たに構築し、先祖の経験を学習してその形質をまねると、ランダムな突然変異のみの場合よりも進化が加速することを数理的に解明した。
東京大学は2022年2月1日、先祖の経験を学習してその形質をまねると、ランダムな突然変異のみの場合よりも、進化が加速することを数理的に解明したと発表した。理論進化学の数理手法を基盤とし、学習と進化の関係を扱う数理手法を新たに構築して明らかにした。
研究では、数理モデルの個体群動態を活用し、先祖の経験を用いた学習で集団の進化が加速するかを検討した。まず、数値実験により、先祖の形質をまねる先祖学習を行うと、ランダムな突然変異のみの場合と比べて集団適応度が高いことを確認した。集団適応度は、生物集団の増殖の早さを測る指標の1つで、値が大きいほど適応度が高い。
また、先祖学習をする生物集団の増殖をシミュレーションした結果、ランダムな突然変異のみの場合よりも早く、最適な形質発現戦略(個体が結果的にある形質をとる確率)を獲得することが明らかになった。さらに先祖学習は、質的に進化を加速させるという。
この先祖学習による進化の加速を定量化するため、フィッシャーの自然選択の基本定理である進化速度を測る定理を拡張。先祖学習がどのくらい進化を加速させるかを定量化した。
従来の進化学では、ランダムな突然変異により集団内に生じた多様な形質から、環境に適した個体が多くの子孫を残すことで、集団全体として適応すると考えられてきた。一方で、近年はエピジェネティック研究が進み、DNAの塩基配列以外で親世代の形質が継承される可能性が示唆されている。
今回の研究で拡張したフィッシャーの基本定理は、親子相関があるデータの解釈や先祖学習を検証する新たな実験系の設計、遺伝的アルゴリズムや機械学習などへの応用が期待される。
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