東京大学医科学研究所は、コメで作った飲むワクチン「ムコライス」について、ヒトでの有効性と安全性を確認した。コレラ菌や毒素原性大腸菌への感染を予防する、常温保存可能で安価な経口ワクチンを世界的に供給できる可能性がある。
東京大学医科学研究所は2021年6月26日、コメで作った飲むワクチン「ムコライス」(MucoRice-CTB)について、ヒトでの免疫原性(有効性)と安全性、忍容性を確認したと発表した。同研究所 東京大学特任教授部門 粘膜免疫学部門特任教授の清野宏氏らと千葉大学、大阪市立大学の共同研究によるものだ。
ムコライスは、下痢症の原因となるコレラ毒素のBサブユニット(CTB)をワクチン抗原としてイネに発現させたコメ型経口ワクチンだ。今回の研究では、海外渡航歴と下痢症の関連がない20〜40歳の健康な成人男子60人を対象に、ムコライスまたは野生米を2週間おきに4回経口摂取する、二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験を実施した。
試験の結果、重篤な有害事象は認められなかった。また、血清サンプル中のCTB特異的抗体価について、ムコライス経口摂取群とプラセボ群を比較したところ、ムコライス投与量に依存して、CTBに特異的なIgG抗体とIgA抗体が上昇した。
これらのCTB特異的抗体は、類似抗原である毒素原性大腸菌由来易熱性毒素のBサブユニット(LTB)にも交差反応を示した。毒素原性大腸菌由来易熱性毒素は、旅行者下痢症の原因の1つであり、ムコライスがコレラ毒素による下痢だけでなく、旅行者下痢症予防にも効果がある可能性が示唆された。
さらに、被験者の糞便サンプル中の細菌DNAメタゲノム解析を実施したところ、ムコライスを摂取した人のうち、CTB特異的抗体が誘導された人は誘導されなかった人と比べて腸内細菌叢の多様性が高いこと、大腸菌や赤痢菌などのDNAが多くBacteroides(バクテロイデス属)が少ないという特徴があった。
コレラ菌による下痢症は、発展途上国で年間2〜14万人が亡くなるなど、大きな問題となっている。コレラ菌や毒素原性大腸菌感染予防を目的とする経口ワクチンは開発されているが、冷蔵保存が必要なため、発展途上国での接種現場のニーズを満たしているとは言えなかった。
ムコライスは、実験動物レベルでは、経口投与により抗原特異的抗体を誘導することが確認されていた。今回、ヒトでの有効性が認められたことから、注射器や針を使わず、常温保存可能で安価なワクチンを世界的に供給できる可能性がある。
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