ワクチン接種で注射不要に、経粘膜抗原取り込みに直接関わる分子を同定医療技術ニュース

東京大学は、粘膜面からの抗原取り込み口であるM細胞の機能発現に直接関わる分子として、Aif1を同定した。経粘膜ワクチンデリバリー法の構築につながると期待される。

» 2017年04月13日 15時00分 公開
[MONOist]

 東京大学は2017年2月22日、粘膜面からの抗原取り込み口であるM細胞の機能発現に直接関わる分子として、Allograft inflammatory factor 1(Aif1)を同定したと発表した。同大学医科学研究所の清野宏教授と大阪大学微生物病研究所の佐藤慎太郎特任准教授らの研究グループによる成果で、詳細は英科学誌「Nature Communications」のオンライン版に公開されている。

 粘膜免疫における抗原提示は、主に粘膜組織に存在する粘膜関連リンパ組織(MALT)の中で行われ、粘膜面や管腔内から直接抗原を取り込む。この役割(トランスサイトーシス)を主に担っているとされるのが、MALTを覆う濾胞関連上皮細胞層(FAE)の中にある上皮細胞の一種のM細胞だ。これまで、M細胞への分化に必要な転写因子や、M細胞上の病原性細菌に対する受容体は報告されているが、トランスサイトーシスにおいて働く分子群は同定されていなかった。

 研究グループは今回、このM細胞のトランスサイトーシスに直接関与する分子群を同定することを目指した。まず、M細胞のほとんどを欠失したSpi-B欠損マウスとそのコントロールマウスのFAEを調整して遺伝子発現を解析・比較した。その中の候補遺伝子の1つとしてAif1を同定した。リアルタイムPCRを用いた実験から、Aif1は腸管上皮細胞系列においてはM細胞特異的発現分子であることが明らかになった。

 さらに、Aif1の生体内での機能を詳細に解析するために、Aif1を欠損するマウスを作製した。このマウスでは、M細胞の発達・分化に影響はなかったが、人工粒子や腸内共生細菌、病原性細菌のエルシニア・エンテロコリティカの取り込みが明らかに減弱しており、Aif1がM細胞の機能に関わっていることが示された。

 また、さらなる実験・解析を行い、抗原の取り込みには、マクロファージや樹状細胞などの血球系細胞の影響はほとんどなく、M細胞中でAif1が発現し機能することが重要だということが分かった。

 Aif1-Rac2のシグナル伝達がβ1インテグリンの活性化に寄与するなど、M細胞のトランスサイトーシスを実現するのに必須なものであることが示唆された。カルシウムイオン結合能を持つAif1は、カルシウム依存的なスモールGTPアーゼを活性化させ、それがM細胞の管腔側でβ1インテグリンを活性化し、エルシニアの受容体として機能させるとともに、アクチン再構成を引き起こし、管腔側の細胞膜が変化してトランスサイトーシスを誘導すると考えられるという。

 今後、Aif1の発現や機能をコントロールすることができれば、注射器・針の必要のない粘膜型ワクチンの開発に向けて、抗原取り込み効率を上げることや、病原性微生物の侵入を阻止し感染を予防することが可能になるとしている。さらに、経粘膜ワクチンデリバリー法の構築につながると期待される。

野生型マウスのFAEを管腔側から観察した図。Aif1は成熟M細胞に特異的に発現 野生型マウスのFAEを管腔側から観察した図。Aif1は成熟M細胞に特異的に発現(クリックして拡大) 出典:東京大学
photo Aif1欠損マウスではトランスサイトーシス能が低下(クリックして拡大) 出典:東京大学
photo Aif1のM細胞における機能(クリックして拡大) 出典:東京大学

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