医療にもAIの裾野を広げるインド、欧州各国との連携にはグローバルサウスも絡む海外医療技術トレンド(129)(1/3 ページ)

前回は、2026年ミラノ・コルティナ冬季オリンピック・パラリンピック大会を巡る最新テクノロジー動向を紹介した。今回は、AIを巡るインドと欧州各国/地域の連携について取り上げる。

» 2026年03月13日 07時45分 公開
[笹原英司MONOist]

 前回は、2026年ミラノ・コルティナ冬季オリンピック・パラリンピック大会を巡る最新テクノロジー動向を紹介したが、今回は、AI(人工知能)を巡るインドと欧州各国/地域の連携について取り上げる。

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「インドAIインパクト・サミット2026」を開催

 2026年2月16〜20日、インド政府は、ニューデリーにおいて「インドAIインパクト・サミット2026」(関連情報)を開催した。この国際会議は、2023年の英国、2024年の韓国/英国、2025年のフランスに続く第4回目のグローバルAIサミットとして、AIの社会的インパクトや倫理、持続可能性、包摂的成長についての議論を行った。表1は、今回のサミットにおける7つの柱を整理したものである。

表1 表1 「インドAIインパクト・サミット2026」の7つの柱[クリックで拡大] 出所:Ministry of External Affairs, Government of India「AI Impact Summit Declaration, New Delhi (February 18 - 19, 2026)」(2026年2月21日)を基にヘルスケアクラウド研究会作成

 インド政府は「AIインパクト・サミットが、国際協力およびマルチステークホルダーアプローチを強化し、共通の優先課題の推進や、AIを人類の豊かな未来の実現に役立てるための自主的かつ拘束力のないガイドラインや原則の策定に貢献することを認識している」と強調している。なお、本サミットでは、AIの変革的な力を人類全体の利益や持続可能な発展に結び付けることを目的とした「ニューデリー宣言」が採択され、日本およびG7諸国を含む91の国/地域および国際機関が賛同している。

インドにおける医療AIガバナンスの確立を目指すSAHI

 本サミット開催中の2026年2月17日、インド保健家族福祉省は、「インドの医療における人工知能戦略(SAHI)」および「医療AIのためのオープンデータプラットフォームのベンチマーク(BODH)」を発表している(関連情報)。

 このうちSAHIは、医療分野において安全で相互運用可能かつ信頼性の高いAIソリューションを推進するための包括的な枠組みとして構想されたものである。このプログラムは、医療機関、技術開発者、研究者、政策立案者の連携を促進し、大規模な導入に先立って、AIツールが安全性、有効性、倫理的順守の厳格な基準を満たすことを保証することを目的としている。

 SAHIは、以下の4点を主な柱としている(表2)。

表2 表2 「インドの医療における人工知能戦略(SAHI)」の4つの柱[クリックで拡大] 出所:Ministry of Health and Family Welfare, Government of India「Union Minister of Health and Family Welfare Shri Jagat Prakash Nadda Launches SAHI and BODH Initiatives to Strengthen Responsible Health AI Ecosystem at the India AI Impact Summit 2026」(2026年2月17日)を基にヘルスケアクラウド研究会作成

 SAHIのプラットフォームは、医療AIの開発と実装におけるベストプラクティスを推進する知識共有およびガバナンスのハブとしても機能し、患者データの保護やアルゴリズムの説明責任に関する強固なセーフガードを備えている。

インドの共通医療AIプラットフォームを担うBODH

 他方、BODHは、インド工科大学カーンプル校が国家保健庁(National Health Authority)と連携して開発したものであり(関連情報)、医療分野におけるAIの研究開発と実装を加速するため、信頼性の高いオープンデータセットを提供することを目的としている。BODHは、医療研究のための安全な同意フレームワークと連合学習環境を構築するための戦略的覚書(MoU)に基づいて開発されており、多様な匿名化されたリアルワールドの医療データセットを用いてAIモデルを体系的に評価することを可能にしている。このプラットフォームは、AIシステムの性能、堅牢性、バイアス、汎用性を、人口規模に合わせて導入前に評価するよう設計されている。ベンチマーク基準を制度化することにより、BODHはAIソリューションの信頼性、臨床的妥当性、そして国家の公衆衛生上の優先事項との整合性を確保することを目指している。

 BODHは、インド全土の多様で膨大なデータへのアクセスを可能にする全国規模の医療デジタル化プロジェクトである「アーユシュマン・バーラト・デジタル・ミッション(ABDM)」(関連情報)を活用することにより、次世代の医療AIがインドの国民固有の医療ニーズに的確に対応できるよう支援するとしている。

 参考までに、ABDMの主な目的と特徴を整理すると、以下のようになる。

  • 全ての国民に「ヘルスID(ABHA)」を発行する:14桁の一意な識別番号で、個人の医療情報を一元管理・共有できるようにする
  • 医療情報の相互運用性を確保する:病院、医師、薬局、保険会社など、さまざまな医療関連機関が共通のプラットフォームで情報をやりとりできるように設計されている
  • 患者中心の医療体験を実現する:医療記録を患者自身が管理し、必要に応じて医療機関と共有できるため、診療のたびに紙の記録を持ち歩く必要がなくなる
  • 遠隔医療やモバイルアプリとの連携:CoWIN(ワクチン接種管理)、eSanjeevani(遠隔診療)、Arogya Setu(接触確認アプリ)などと連携し、医療アクセスの向上を図る
  • 2030年までに全国展開を目指す:既に4億件以上のヘルスIDが発行されており、医療従事者の登録も20万件を超えている

 ABDMのプラットフォームは、医療分野におけるAIの品質評価という複雑な課題に取り組むために設計されており、信頼性/公開性/網羅性の間で従来トレードオフとされてきた「AI品質評価のトリレンマ」を戦略的に解決するとしている。

 前述のAIインパクト・サミット会場において、保健家族福祉省は、SAHIとBODHの発表が、医療分野におけるAI活用を前進させる重要な一歩であると強調している。SAHIは政府の長期的な政策的コミットメントを示すものであり、連邦政府と州政府、そして民間パートナーが医療エコシステム内でAIの評価、導入、統合を進めるための共通の枠組みを提供すると述べている。さらにBODHが、臨床医が使用するAIツールの安全性、信頼性、そして実世界のパラメータに基づいた検証を確保する上で極めて重要な役割を果たすと指摘した。インドの医療AIの道のりにおいては、「信頼」「安全性」「説明責任」が常に中心でなければならないと強調している。

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