電動化でさらにレースを面白く、時速380kmの戦い「インディカー・シリーズ」モータースポーツ超入門(11)(3/3 ページ)

» 2021年11月24日 06時00分 公開
[福岡雄洋MONOist]
前のページへ 1|2|3       

電動化しても観客を楽しませ続ける

 時速380kmにも達するインディカー。現在のマシンは2012年からイタリアのダラーラ製「DW12」を採用している。ベースは古いが改良を繰り返し継続して使用されている状況だ。空力性能を高めるエアロキットはロードコースや市街地コース用の「ロードコース・パッケージ」、オーバル用の「スーパースピードウェイ・パッケージ」の2種類が用意されている。2023年シーズンからパワーユニットとともに次世代シャシーが導入される予定だ。

 2020年シーズンからはドライバーの頭部を保護する装置として「エアロスクリーン」の装着が義務付けられた。コックピット全体を透明なスクリーンで覆っているのが特徴で、F1やスーパーフォーミュラなど他のフォーミュラレースなどで採用されている「HALO(ヘイロー)」に相当する。このエアロスクリーンはレッドブル・レーシング・アドバンス・テクノロジーとダラーラが共同開発。チタンフレームと積層ポリカーボネイトで構成されている。

コックピットを覆っているのがドライバーの頭部を保護する「エアロスクリーン」[クリックで拡大]

 タイヤはブリヂストングループのファイアストンが供給している。1995年シーズンから供給しており、シリーズが分断したCART、IRLの双方にタイヤを供給した歴史も持つ。1999年にグッドイヤーの撤退により2000年以降は唯一のタイヤサプライヤーとしてシリーズを支えており、インディカーは2025年までファイアストンとの独占供給契約を締結している。

 エンジンはホンダとシボレー(GM)が提供している。DW12と同じ2012年から排気量2.2l(リットル)、V型6気筒ツインターボエンジンを採用し、最高出力はサーキットにより異なるが550〜700馬力を発揮する。「プッシュ・トゥ・パス」と呼ばれるインディカー独自のオーバーテイクシステムを導入しており、ターボの最大ブースト圧を一時的に引き上げることができる。

 エンジンについては2023年からハイブリッドシステムを導入することが決まっている。当初は2022年シーズンから使用する予定だったが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大などの影響を鑑みて2023年に延期した。

 インディカーが導入するハイブリッドシステムは、ブレーキからエネルギーを回収するモーター、インバーター、蓄電デバイスで構成する予定。プッシュ・トゥ・パスのパワーも向上し、使用時には900馬力を超えるパワーが発揮できるとみられている。

 また、ハイブリッドシステムにより、ドライバー自身がマシンを起動できるようになる。これにより、マシンがコース上にストップする危険を減らすとともに、マシンのけん引などに伴うコーションフラッグの掲示を減らせる可能性もあるという。レース中のタイムロスを減らしてバトルのない時間を少なくすることで、ドラフティング、テール・トゥー・ノーズ、サイド・バイ・サイドのオーバーテイクショーが常に繰り広げられるメリットが得られると期待されている。

 インディカーは環境問題への対応として、穀物を主原料としたエタノール(エタノール85%、ガソリン15%)を使用している。ハイブリッドシステムの導入も環境対応の一環だが、同時にレースを面白くするための措置でもある。

 米国のモータースポーツはただただ広い土地にオーバルトラックを作り、スピードとスリルを味わうエンターテインメントとして発達し、その歴史を今に紡いできた。とにかくファンを楽しませる――。これこそ時代が移ろうとも変わることのないアメリカンモータースポーツの神髄なのだ。

次の記事を読む

→連載「モータースポーツ超入門」バックナンバー

前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.