モータースポーツの見どころは順位だけではない! 「走る実験室」で磨かれる技術モータースポーツ超入門(1)(1/2 ページ)

順位を競うだけではないのがモータースポーツの世界だ。技術競争の場でもあるからこそ、人やモノ、金が集まり、自動車技術が進化する。知られているようで知らないモータースポーツでの技術開発競争について、レースカテゴリーや部品ごとに紹介していく。1回目はF1(フォーミュラ・ワン)を取り上げる。

» 2020年10月02日 06時00分 公開
[福岡雄洋MONOist]

 「走る実験室」といわれるモータースポーツ。プライベーター(個人参加者)のみならず、世界の名だたる自動車メーカーも巨額の資金を投じて参戦する。それはクルマを売るためのマーケティングやブランディングの活動としての意味合いだけでなく、1000分の1秒を争うレース現場こそ、最先端の技術開発や技術者育成の場として有効活用できるからに他ならない。多くの部品メーカーも自社製品をもって参加しており、製品性能のさらなる向上や将来技術に磨きをかけている状況だ。

 モータースポーツではレースカテゴリーごとに定められたレギュレーション(規則)の下、あらゆる領域で技術開発競争が繰り広げられている。自動車産業が注力するCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)につながる技術開発もあれば、規則の抜け穴を探り重箱の隅をつつくような姑息とも思える技術開発もある。

 順位を競うだけではないのがモータースポーツの世界だ。技術競争の場でもあるからこそ、人やモノ、金が集まり、自動車技術が進化する。知られているようで知らないモータースポーツでの技術開発競争について、レースカテゴリーや部品ごとに紹介していく。1回目はF1(フォーミュラ・ワン)を取り上げる。

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F1で生まれたエコカー技術「KERS」とは

 F1は国際自動車連盟(FIA)が主催する最高峰の自動車レースだ。各国で行われる世界選手権はグランプリと呼ばれ、第1回大会は1950年に英国のシルバーストーンサーキットで開催された。フランスで行われる「ル・マン24時間耐久レース」、米国の「インディ500」とともに世界3大レースといわれている。

 とくに近年は量産車と密接に関係した技術開発が展開されているのが特徴だ。ガソリンを燃焼させるエンジン(内燃機関=ICE)と、運動エネルギーや排気エネルギーを電気として回収するエネルギー回生システムを組み合わせたパワートレインは、まさに近代F1を象徴する最先端技術といえる。

近年のF1マシンは内燃機関のパワーアップはもとより、効率的なエネルギーマネジメントが性能向上のカギを握っている(クリックして拡大) 出典:ホンダ

 F1にエネルギー回生システムが初めて採用されたのは2009年のことだ。運動エネルギー回生システム「KERS(Kinetic Energy Recovery System、カーズ)」が任意搭載ながらも、2013年までレギュレーションとして規定された。それまではICEだけを動力源としていたが、環境問題に対する関心の高まりを背景に、化石燃料を消費するモータースポーツへの風当たりを避けるべく、FIAが電動化の動きを加速させる形で導入を決めた。

 F1技術の環境対応は量産車にも生かされる技術であり、社運をかけてF1に参戦する自動車メーカーにとっても取り組むメリットは少なくない。勝敗や成績、イメージがマーケティング活動につながり、量産車の販売にも影響するだけに、F1での環境技術は消費者へのアピール材料としても有効活用できるものだったからだ。

 KERSはブレーキング時に発生する熱エネルギーを回収し、加速時に利用するシステムだ。通常、自動車はブレーキング時に運動エネルギーを熱エネルギーとして捨てながらスピードを落としているが、この捨てられる熱エネルギーをリサイクルする仕組みだ。エコカーでおなじみのハイブリッドカー(HV)や電気自動車(EV)にも近いエネルギー回生システムといえる。

 回生されたエネルギーを使ってICEをアシストするわけだが、KERSの出力は80馬力あり、サーキット1周当たり0.3〜0.5秒のタイム短縮になったといわれている。エコロジーでラップタイム短縮にもつながるだけに使わない手はないと思われるシステムだが、レギュレーションでは任意搭載となっていただけに搭載しないチームも目立った。

 その理由が重量だ。レーシングカーにとって軽量化は最重要課題の1つであり、KERS搭載によって約40kgもの重量が増えるデメリットを懸念したのだ。さらに費用対効果や信頼性などを疑問視する声もあり、2010年シーズンは参加チームの間でKERSの使用を制限する紳士協定が結ばれた。

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