重点成長事業となったパワーデバイス事業は設備投資計画も積み増した。2021年6月の中期経営計画発表時点では、2021〜2025年度の期間中の設備投資額を1000億円としていたが、今回の発表では1300億円に増やした。これによって、ウエハーを作り込む前工程の生産能力を2025年度までに2020年度比で約2倍に増強するとともに、組み立てや検査などの後工程も需要に対応できる体制に強化する。
これまでパワーデバイス事業の主力生産拠点は熊本工場(熊本県合志市)だったが、2020年6月にシャープ福山事業所の一部を取得して福山工場(広島県福山市)を開設している。既に8インチラインを構築しており、2021年11月から試験量産を始め、2022年春には本格量産に入る予定だ。
この福山工場では、12インチラインの構築にも着手しており、2024年度の量産開始を目標としている。12インチ化の際に微細加工技術も向上できることから、低損失が特徴の三菱電機独自のCSTBTセル構造をさらに進化させるとともに、ダイオードとIGBTを1チップ化したRC-IGBTについても12インチラインでの生産を想定している。
齊藤氏は、パワーデバイス生産の12インチ化で先行する競合他社との比較について「当社の12インチライン導入が遅れていることはない。熊本工場の8インチラインは、多品種少量生産となる産業、再エネ、電鉄などの分野向けにうまく活用してきた。しかし、今後注力する自動車と民生分野は1品種の量産規模が大きくなるので価格競争力を持たせる必要があり、そのために12インチラインを導入するので必要なタイミングでの投資になる」と説明する。
また、SiCデバイスの生産は熊本工場で行っており、2025年度までの需要については現在の生産能力で賄える見通し。「SiCデバイスは自動車分野での需要拡大を想定しているが2025年度まではまだそれほど伸びないため、今回の設備投資計画の中で生産能力を増強する予定はない」(齊藤氏)としている。
なお、齊藤氏が担当する電子デバイス事業は、重点成長事業に指定されたパワーデバイス事業とともに、基地局向けの無線通信デバイスや世界シェアトップのデータセンター向け光デバイスなどを扱う高周波・光デバイス事業がある。売上高比率は、パワーデバイス事業が約75%、高周波・光デバイス事業が約15%となっている(残り10%を占める液晶事業は、2022年6月に生産を終了し事業を収束する予定)。
2021年6月の中期経営計画において、高周波・光デバイス事業はさらなる収益性改善が求められる価値再獲得事業となっていた。齊藤氏は「2018年度に大きなロスがあったため、事業としての安定性に向けた改善が必要という意味合いで価値再獲得事業になった。パワーデバイス事業ほどの市場拡大はないが、利益面では貢献度が高いのでしっかりと事業を進めていきたい」と述べている。
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