三菱電機が2021〜2025年度の中期経営計画で重点成長事業の一つに位置付けたパワーデバイス事業の戦略を説明。産業、再エネ、電鉄などの分野をベースロードとしながら、今後は自動車と民生の分野に注力し、2020年度の売上高1480億円、営業利益率0.5%から、2025年度に売上高2400億円以上、営業利益率10%以上に引き上げる方針だ。
三菱電機は2021年11月9日、東京都内で会見を開き、2021〜2025年度の中期経営計画で重点成長事業の一つに位置付けたパワーデバイス事業の戦略を説明した。現在の主力となる産業、再エネ、電鉄などの分野をベースロードとしながら、今後は特に高い成長が見込まれる自動車と同社が強い民生の分野に注力し、2020年度の売上高1480億円、営業利益率0.5%から、2025年度に売上高2400億円以上、営業利益率10%以上に引き上げる方針だ。
パワーデバイス事業が重点成長事業に指定された背景には、パワーデバイスが電力利用の効率を高める観点から脱炭素社会への貢献に向けたキーデバイスになっていること、中電圧〜高電圧の電力変換機器に用いられるIGBTモジュールでトップクラスのシェアを持つことなどがある。三菱電機 常務執行役 半導体・デバイス事業本部長の齊藤譲氏は「さらには、他の重点成長事業である、FA制御システム、空調冷熱システム、ビルシステム、電動化/ADAS(先進運転支援システム)にとって、パワーデバイスがキーデバイスになっていることも重要だ」と語る。
同社の見通しによれば、IGBTモジュール市場の2020〜2025年度の年平均成長率は12%で、2020年度の6000億円弱から2025年度には9000億円を上回るという。中でも成長をけん引するのは、EV(電気自動車)への移行により急速に電動化が進む自動車分野で同期間の年平均成長率は23%に達する。これに対し、民生分野、産業、再エネ、電鉄分野の年平均成長率は6%となっている。
そこで、三菱電機のパワーデバイス事業としては、成長著しい自動車分野と、同社の製品が高シェアを占める民生分野に注力することで、2025年度の売上高を2020年度比で62%増となる2400億円以上にしたい考えだ。2020年度時点ではベースロードとなる産業、再エネ、電鉄分野と、今後注力する自動車、民生分野の比率は半々だが、2025年度時点では自動車、民生分野を65%まで伸ばすことを目標としている。営業利益率は、2020年度の0.5%から2021年度には5%に回復し、2024年度には10%以上に引き上げる。「半導体事業を安定的に運営するためには最低でも営業利益率で10%は必要。この目標達成はそれほど高いものとは考えていない」(齊藤氏)という。
民生分野のパワーデバイスの市場動向では、まず、同社が高シェアを握るルームエアコンの圧縮機向け市場が省エネ規制強化などにより順調に拡大する見込み。そして、エアコンファン、洗濯機ファン、冷蔵庫などの電流容量が小さな用途向けもインバーター化が進展し、新市場として拡大するという。実際に、ルームエアコンのインバーター化率は2021年度の77%から2025年度に85%へ、洗濯機のインバーター化率も43%から57%に伸びるという調査結果もある。
民生分野向けのパワーモジュールは、IGBTモジュールに自己保護機能を内蔵したトランスファーモールド型IPM(Intelligent Power Module)をいち早く市場投入し、さらに周辺部品を取り込んだ最適なパッケージで設計容易化や小型化を実現することでデファクトスタンダード化を果たしており、IPM市場ではグローバルトップシェアを獲得している。
その上で、ルームエアコンの圧縮機向けでは、ダイオードとIGBTを1チップ化した「RC-IGBT」を採用した「SLIMDIP」の展開を強化する。SLIMDIPは、従来比で30%の小型化、他社製品比で30%の損失低減を実現するなどの特徴を備えている。また、エアコンファン、洗濯機ファン、冷蔵庫などの新市場向けでは、SLIMDIPの機能を維持し表面実装化した「SOPIPM」を投入済みだ。SOPIPMは、他社製品比で基板面積を10%削減できることが特徴になる。既に大手顧客による採用も決定しており、IPMと同様にデファクトスタンダード化を目指す。これらのSLIMDIP、SOPIPMは戦略製品に位置付けられており、民生分野全体に対する戦略製品比率を2020年度の35%から2025年度には70%まで高めていく方針だ。
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