経済産業省では、ロボットを利活用するユーザー企業の現場での緻密な課題抽出と、それら課題の解決に向けて、2019年秋に「ロボット実装モデル構築推進タスクフォース」を立ち上げた。同タスクフォースには、経済産業省とNEDO(エネルギー・産業技術総合開発機構)、ロボットメーカー、ロボットサービスプロバイダーなどが参画している。
現在は「施設管理」「小売り」「食品」の3分野を検討分野として活動を行っている。3分野を選んだのは、人手不足や生産性においてより大きな課題を抱えている業界であるということを優先したものだ。メンバーには、各分野のユーザー企業も参加しており、各業界をリードしている企業同士が競合ではなく、協調していく環境を整えていることが大きな特徴となっている。
分野別に取り組みをみると「施設管理」分野ではオフィスビル、商業施設、ホテル、病院などの施設を想定している。ここでは共通したロボット導入のニーズが高く、各社で協調できる業務箇所は施設内の搬送、清掃、警備が中心となる。
これらの業務には必ず「移動」が伴う。施設内には異なるメーカーのエレベーターや扉、さまざまな形状の床などロボットにとっての障害物があり、ロボット自体に搬送、清掃、警備する機能が備わっていても、移動ができない場合がある。ロボットが自律的に移動する範囲が狭ければ、導入のコストベネフィットは低くなる。そのため、ロボットとエレベーター、扉との通信連携、施設環境の物理特性(床や壁などの材質、各スペースの寸法、色など)について標準化していくことでロボットによる自律的な移動範囲を拡大することを目指す。
「小売り」分野では、スーパーやコンビニといった小売り店舗でのロボットの活用を想定している。共通してロボット導入の潜在的ニーズは高く、協調できる業務領域としては、品出し(陳列)、在庫管理、レジ決済の工程をピックアップしている。ただ、小売り店舗において扱う商品数は数多く、しかも新商品が日々入荷しており、品出しのように商品をタイムリーに認識してつかんで運ぶなどの動作をロボットが行うことは困難だ。また、店舗の通路などの形状も店舗ごとに異なるため、ロボットの店舗内の移動は難しい。
そのため、ロボットがさまざまな商品を認識し動作するためのキーとなる「商品画像データベース」を整備するとともに、物理特性(床や壁などの材質、各スペースの寸法、色など)の標準化を通じてロボット導入の促進を検討中だ。具体的にはロボットが商品を認識し、動作することによって必要な学習用データを規格化し、データベースとして構築していくなども想定している。
食品分野は、中食の総菜製造工程が検討対象となっている。中食の市場規模は2018年度時点で約10.3兆円、食品製造業全体の市場規模は2018年で約21兆円程度であり、中食は食品製造業の半分を占めている。中食の製造工程で自動化されていないのは「盛り付け工程」と「出荷工程」である。これらは作業そのものが三密状態になることもあり、感染症への対応の意味でも自動化に向けた対策が期待されているところだ。
ただ、総菜は多品目を小ロットで製造することに加え、発注者である小売り企業から盛り付けの「見た目」も仕様として注文されており、汎用的な製造ラインを構築する難易度が極めて高くなっている。そのため、小売り事業者と連携して、消費者の盛り付けに対する要求度合いを踏まえ、商品のトップシール化(蓋となるフィルムを熱シールして密封する包装)といった商品面の形状を変更することが大きなポイントとなる。人による最小限の手直しを前提に、自動盛り付けラインを開発し、また、出荷工程の自動化を実現するため、容器の特定箇所を規格化していく。具体的には、盛り付け方式の標準化と安価なアームロボットとハンドの開発、蓋閉じトップシール化などを進めていく。
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