トヨタはモビリティチームメイトコンセプトという考え方に基づいて研究開発を進めている。このコンセプトは、人とクルマが同じ目的で、ある時は見守り、ある時は助け合い、気持ちが通った仲間(パートナー)のような関係を築くという、トヨタが考える自動運転の在り方だ。ドライバーはステアリングを握っているが、システムは常に周囲の状況を見守っている。ドライバーが疲れて何らかの危険を見逃したときにシステムはドライバーを助けるために運転に介入する。トヨタではこれをガーディアンシステムと呼んでおり、このような安全システムは「Fun to Drive」とも両立するという。
安全性、運転の楽しさ、愛車としての存在価値は全てつながっている、というのがトヨタの考えだ。そのため、現時点では個人所有車に対しては「チームメイトコンセプト」「ガーディアンコンセプト」を浸透させる。これらを具現化させたのが、自動車専用道路向けの運転支援機能で、2021年にレクサスブランド「LS」と燃料電池車の「ミライ(MIRAI)」で実用化している。
モノのモビリティ、運輸部門でのカーボンニュートラルの実現を図るために、商用車のCO2排出削減にも取り組んでいる。事業者のニーズに合わせて選択できるよう、EVとFCVの両方の準備が必要だという。特に、より長距離を走る商用車には燃料電池(FC)がゼロエミッション化に貢献するとみている。
トヨタは2020年にミライの2代目を発売した。乗用車以外にも、バスやトラックなどさまざまな用途で同社の燃料電池技術が活用されるよう、世界各国のパートナーと水素社会の実現に向けて力を注いでいる。ただし、「水素だけで全てをまかなうことはできないため、電気との併用でより効率的な社会が実現できると考えている」(奧地氏)とする。
情報の可動性については、クルマの情報をクルマのためだけに利用するのではなく、さまざまなサービスと連携して新たなサービスを生み出すという価値を発揮することが重要だ。ここで重要になるのが、トヨタが構築してきた「MSPF(モビリティサービス・プラットフォーム)」だ。蓄積した車両データをMSPF上で集約し、車両状態やセンサーの情報をさまざまなサービス事業者が活用することにより、タイムリーで、質の良いサービスを提供できる。
車両から取得可能なデータには「クルマの位置情報」と「CANデータ」の2つがある。位置情報を用いた代表的なものには渋滞情報がある。この情報は防災・減災分野においても「通れた道マップ」などの情報をパートナーに提供し、活用されている。CANデータは、ABS(アンチロックブレーキシステム)の作動情報の提供などで交通事故対策などに生かされている。また、車輪の回転速度を基にした路面情報の可視化や、ワイパーの稼働状況と雨雲レーダーとの相関を生かした気象状況の把握にも用いられている。
その他、暮らしにかかわるインフラやさまざまなサービスをつなぐことで、家事や育児、介護などの支援サービスも提供できるようになるという。こうしたスマートシティーを実現する上で必要不可欠な情報処理プラットフォームの構築のため、実際の街を作る前に仮想空間上でシミュレーションできるデジタルツインを作成した。
同社ではウーブン・シティーと呼ばれる、実験都市を開発するプロジェクトをスタートしている。同プロジェクトの目的は、ロボット、AI(人工知能)、自動運転、MaaS、パーソナルモビリティ、スマートホームといった先端技術を人々のリアルな生活環境の中に導入、検証できる実験都市を新たに作り上げるというものだ。実験都市では、パートナー企業や研究者と連携しながら実証を行うことで、人々の暮らしを支えるあらゆるモノやサービスが情報でつながることで生まれる新たな価値やビジネスモデルを見いだす。
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