トヨタの未来の愛車づくりは、「愛車」が伝わらないところから始まった東京モーターショー2019 インタビュー(1/2 ページ)

AIエージェントはどのように人を理解し、クルマを愛する気持ちを喚起するのか。AIエージェント「YUI」を搭載したコンセプトカー「LQ」の開発責任者であるトヨタ自動車 トヨタZEVファクトリー ZEV B&D Lab グループ長の井戸大介氏に話を聞いた。

» 2019年11月07日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]

 「クルマは愛のつく工業製品」とトヨタ自動車 社長の豊田章男氏は折に触れて語る。

 同社はコンセプトカーでも未来の愛車を提案することに取り組んでおり、2017年の消費者向けエレクトロニクス展示会「CES」で「Concept-愛i」を披露。また、「第46回東京モーターショー2019」(会期:2019年10月24日〜11月4日、東京ビッグサイト他)では、無人運転車「e-Palette」を馬車に例え、同じ馬でも操る楽しさがあり愛馬のような存在となる「e-RACER」や、Concept-愛iのコンセプトを具体化してAI(人工知能)エージェント「YUI」を搭載したコンセプトカー「LQ」を発表した。

コンセプトカーの「e-RACER」(左)。第46回東京モーターショー2019のプレスカンファレンスに登壇したトヨタ自動車の豊田章男氏(右)(クリックして拡大)

 愛車を形にする取り組みはコンセプトカーで終わらず、スマートフォンアプリを通じてAIエージェントのYUIに趣味嗜好を理解してもらうLQ試乗会「トヨタYUIプロジェクトTOURS 2020」を2020年6〜9月で実施する計画だ。AIエージェントはどのように人を理解し、クルマを愛する気持ちを喚起するのか。LQの開発責任者であるトヨタ自動車 トヨタZEVファクトリー ZEV B&D Lab グループ長の井戸大介氏に話を聞いた。

「クルマがパートナー? ちょっと気持ち悪い」という海外の感覚

トヨタ自動車の井戸大介氏と「LQ」(クリックして拡大)

MONOist 「愛車」という感覚は一般的なものでしょうか。人によっては、クルマに対して特に愛はなく、必要に迫られるなどしてあくまで道具として使っています。また、日本だけでなく海外でも「愛車」という感覚はあるのでしょうか。

井戸氏 愛車という感覚は海外にはあまりない。クルマを趣味の対象とし、カスタマイズしたり走りにいったりする文化はあるが、その中でクルマに特別な感情が芽生えているかというと、そうではない。Concept-愛iやLQはTRI(トヨタリサーチインスティテュート)とトヨタの共同開発だが、そもそも感覚が違うところからスタートだった。

 最初は「クルマがパートナー? ちょっと気持ち悪い」とTRIのメンバーに言われてしまったほどだ。欧米には、人間以外のものは征服し、コントロール下に置くという感覚があり、生き物ですらないクルマをパートナーと呼ぶことはあり得ないと受け止められられた。そのスタートラインから、愛車についてのイメージを共有した。

MONOist どのようにして愛車という感覚を理解してもらいましたか。

井戸氏 キーワードは愛馬だった。馬は相棒になり得るのは伝わったが、グローバルで見たときに日本的な感覚だけで説明するのは限界がある。「永遠と一瞬」と説明して理解を得られたので、海外とも連携してやりたいことはできそうだ。

 永遠と一瞬というのは、次のようなイメージだ。人間の思い出で、覚えているものは一瞬の出来事だ。ある10分間のことを全て覚えているというのではなく、あるシーンだけを記憶している。それがいい思い出なら、一生覚えていられるし、その人にとっての永遠にもなることができる。

 そのいい思い出のシーンの中にクルマがいたら、そのクルマも大切に思ってもらえるのではないか。その思い出のシーンにあったクルマがいずれ廃車になったとしても、「あの時のあのクルマはよかった」と記憶に残るし、街で見かけて乗っていた日々を思い出すこともあるだろう。子どもが生まれた日など人生の節目にクルマがそばにあって、思い出の一部になればクルマと人の関係が変わっていく。このイメージは海外の人とも共有できたし、愛車という感覚がなくても分かってもらえた。

MONOist 愛車にこだわることは、収益にどんな意味がありますか。

井戸氏 これまでのキャリアではレクサス「LFA」や「MR-S」に携わってきた。これらは決して大きな利益を上げるクルマではなかったし、トヨタが収益だけにこだわる会社であれば、こういうクルマの仕事をすることはなかっただろう。愛車は経済的な価値基準には出てこない、情緒的な価値だ。おカネだけじゃない、気持ちに訴えるクルマという意味では、LFAやMR-SとAIエージェントは共通している部分がある。心の深いところに刺さらなけらばならない仕事だ。

MONOist 愛車を前面に打ち出さなくても、所有してクルマに乗りたいという需要は残り続けるのではないでしょうか。

井戸氏 愛車はノスタルジーな概念だ。プロジェクトのリーダーとして、ノスタルジーを今の時代の概念として昇華させることにチャレンジしたい。これからモノではなくコトの時代にどんどんなっていく。今までの愛車という感覚はモノに属するが、思い出はコトだ。”馬車”と”愛馬”のどちらのクルマでも、その人のあるシーンにクルマがあればいいと考えている。シェアリングのクルマでも愛車になりうる。

MONOist トヨタのクルマは愛よりも信頼性や安心感など実利的な面で選ばれているように思えます。

井戸氏 企業が存在する理由は経済合理性だけではない。愛される会社、愛される製品でありたい。愛が大げさなら、使いやすく役に立つ製品を提供していきたい。AIエージェントも、使いやすく役に立つというリアリティを持って開発する。展示会などでコンセプトを伝えるときも、映像を流すのは簡単だが、実際に動くデモ機でAIが人を理解する工程を実演した。展示会の会期中、不具合なく動き続けられるデモを作り込んだ。

 製品としても同様だ。新しいものを真っ先に採用しようとする自動車メーカーもいるし、目新しいことを自慢したいユーザーもいるかもしれないが、トヨタが作るAIエージェントは、普通の人、一度買ったら長く使う人、壊れずに安心して使いたい人に応えられる機能でなければならない。

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