名古屋大学は、ウイルス感染に対する哺乳類の自然免疫応答の分子メカニズムを発見し、コウモリがウイルスの自然宿主になりやすい仕組みを解明した。
名古屋大学は2021年8月30日、ウイルス感染に対する哺乳類の自然免疫応答の分子メカニズムを発見し、コウモリがウイルスの自然宿主になりやすい仕組みを解明したと発表した。山口大学、国立感染症研究所との共同研究による成果だ。
一般的にコウモリは、ヒトにとって危険なウイルス感染に対する免疫応答が小さく、SARSコロナウイルス(SARS-CoV)や中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、エボラウイルスなどの自然宿主として、ヒトへのウイルス感染に関与している。
今回の研究では、ユビナガコウモリ、クビワオオコウモリ、キクガシラコウモリ、ルーセットオオコウモリという4種のコウモリと、ヒト、ハムスターの腎臓由来の培養細胞を用いて、ウイルス感染による細胞毒性の評価をした。ウイルスは、コウモリオルソレオウイルス(PRVs)を使用。PRVsはコウモリ由来のRNAウイルスで、ヒトへも感染することが知られている。
実験の結果、ヒトやハムスターは感染1日後には半数以上の細胞が生存できなかったが、3種のコウモリ細胞株では細胞死の割合が低かった。つまり、ヒトやハムスターの細胞種よりも、高い抗ウイルス活性が確認できたことになる。
抗ウイルス活性を示した細胞種では、自然免疫に関する細胞に存在するパターン認識受容体とインターフェロンの遺伝子発現が、ウイルス感染後に上昇した。また、これらの遺伝子機能を抑制すると、感染後のウイルス複製量が増加した。この結果から、パターン認識受容体やインターフェロン遺伝子が、ウイルス感染後の細胞変性とウイルス複製の軽減に寄与することが示唆された。
パターン認識受容体やインターフェロン遺伝子は、複数の異なるウイルス種に対する薬剤の開発ターゲットになり得るという。また、培養細胞を用いた評価法は、他の動物種が自然宿主になるかどうかの推定に応用できる可能性があるとしている。
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