世界で最も愚直な会社、アマゾンの脅威サプライチェーンの新潮流「Logistics 4.0」と新たな事業機会(10)(4/4 ページ)

» 2020年06月23日 11時00分 公開
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「顧客情報」はアマゾンが有する最大の財産

 創業者兼CEOであるジェフ・ベゾス氏は、「アマゾンはロジスティクス・カンパニーである」と公言しています。さりながら、「ロジスティクス=物流」と考えると、アマゾンの戦略を見誤るでしょう。ロジスティクスの語源は「兵站(たん)」です。企業活動でいえば、物流も含めたサプライチェーン全体を兵站と捉えるべきでしょう。

 EC事業のために投資されたアセットを兵站として徹底的に使い倒そうとしているわけです。それは、「サーバシステム」であり、「物流ネットワーク」でありますが、もう1つ、アマゾンが他社にはない規模のアセットを有しているものがあります。それは「顧客情報」です。

 アマゾンほど、「誰が何を買ったのか」という情報を蓄積できている企業はありません。あらゆる商材を幅広く取り扱っているがゆえに、特定個人の購買傾向を把握することも可能です。一般の小売事業者では知り得ないメールアドレスや住所といった個人情報も蓄積し、注文を得るたびにアップデートしています。アマゾンは、ワントゥワンマーケティングの実現に最も近いところにいるといえるでしょう。

 ただ、そのアマゾンにしても、「アマゾンを利用したとき」以外の情報を正確に把握することは困難です。ワントゥワンマーケティングを実現するためには、「リアルな世界での顧客の動きを追跡し、アマゾンが蓄積した個人情報とひも付けること」が必要となります。

 連載第3回で紹介した「Amazon Echo」は、上記を実現するための1つのツールといえるでしょう。Amazon Echoは、「音声だけでリモート操作できるスマートスピーカー」であり、人の声を認識して、音楽を再生したり、天気予報を聞いたり、レストランの開店時間を調べたり、といったことが可能です。もちろん、アマゾンで買い物することもできます。

「Amazon Echo」のラインアップ 「Amazon Echo」のラインアップ。当初はなかった小型モデルの「Amazon Echo Dot」、スクリーン付きの「Amazon Echo Show 」や「Amazon Echo Spot」などを展開している(クリックで拡大) 出典:アマゾン

 しかし、アマゾンの真の目的は、Amazon Echoを売って収益を得ることではありません。Amazon Echoが置いてあれば、その家のリアルな日常生活を知ることができます。アマゾンでの購買履歴と、その家の音声情報を組み合わせれば、「このCMが流れたときに商品Aが売れた」「商品Bは帰宅時間が遅い女性が購入している」といったことも分かるようになります。よりピンポイントに、「朝食をゆっくり味わうような家庭にアプローチしたい」というマーケティングニーズにも対応できます。あるいは、在宅情報を宅配効率の向上や警備サービスの機能強化に生かすことも可能でしょう。

 無人コンビニのAmazon Goも、「リアルな世界に配備する情報端末」と捉えられます。「誰がその商品を買ったのか」「その人は誰と来たのか」「どういう身なりだったのか」「一度手にとって買わなかったものは何か」といった、POSシステムでは分からなかった情報を収集できるからです。

アマゾンは兵站で勝つ

 「ローマは兵站で勝つ」と称されていましたが、アマゾンは「現代のローマ」ではないでしょうか。先行者として戦略的な投資を実行し、顧客からの要望に広く対応することで、その世界で最大のシェアを獲得するわけです。サプライチェーンの最適化に必要な兵站をインフラ的に提供する「ロジスティクス・カンパニー」なのです。

 ECやAWSは、アマゾンが提供する「ロジスティクス・サービス」の1つに過ぎません。兵站をインフラとして確立するまでに必要な戦略的投資を愚直に実行し続けられることこそ、アマゾン最大の強みであり、経営のコアコンピタンスといえるはずです。



 さて、次回は、本連載をご覧の皆さまが所属されている企業において、新たな成長の実現に向けた戦略的投資を実行するにあたり有望なターゲット領域を紹介したいと思います。どのようなターゲット領域が存在し、どのような視点から検討を進める必要があるのか、その考え方を解説します。

筆者プロフィール

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小野塚 征志(おのづか まさし) 株式会社ローランド・ベルガー パートナー

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士総合研究所、みずほ情報総研を経て現職。ロジスティクス/サプライチェーン分野を中心に、長期ビジョン、経営計画、成長戦略、新規事業開発、M&A戦略、事業再構築、構造改革等を始めとする多様なコンサルティングサービスを展開。2019年3月、日本経済新聞出版社より『ロジスティクス4.0−物流の創造的革新』を上梓。

株式会社ローランド・ベルガー
https://www.rolandberger.com/ja/Locations/Japan.html

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