物流の第4次産業革命ともいえる「Logistics 4.0」の動向解説に加え、製造業などで生み出される新たな事業機会について紹介する本連載。第3回は、サプライチェーンの川下にあたる流通・小売プロセスでの先進事例を紹介するとともに、「デマンドチェーンマネジメント」の重要性について説明する。
⇒連載『サプライチェーンの新潮流「Logistics 4.0」と新たな事業機会』バックナンバー
前回は本連載の第2回目ということで、サプライチェーンマネジメントの基本的な考え方と、デジタル化の現状と動向、調達・生産プロセスでのイノベーションを解説しました。今回は、サプライチェーンの川下にあたる流通・小売プロセスでの先進事例を紹介したいと思います。
さて、流通・小売プロセスの最適化を実現するにあたって最も重要なことは、消費者の需要動向や購買行動を予測・推定し、在庫と欠品の最小化を実現することにあります。どの商品が、どこで、どの程度売れるのかが分かれば、作り過ぎたり、在庫を持ちすぎたり、欠品が発生したり、店舗間で在庫を融通したりするようなことはなくなります。もちろん、100%の確率で全てを見通すことはできないわけですが、他社よりも早く、より正確に実態を把握・共有し、流通・生産プロセスに反映させることができれば、企業としての競争力が高まります。
サプライチェーンは、川上から川下にモノを供給するプロセスを指しますが、情報は川下から川上に伝わります。その点からして、流通・小売プロセスでは、サプライチェーンのみならず、川下から川上への情報を伝達・共有する「デマンドチェーンマネジメント」の仕組みを構築することが枢要といえるでしょう。
花王は、20年以上前から需要予測を核としたサプライチェーンの最適化に取り組んでいます。品目別・納品先別に蓄積された日次の販売実績をベースに、将来の需要を予測し、販売計画や生産計画を作成します。担当者の思惑が入った見込みではなく、品目別・納品先別での需要特性、季節変動、価格弾性、商談情報などを基に科学的に予測することで、在庫や欠品の最小化と、物流・流通コストの低減を実現しています。現在では、新商品であっても1週間後には定番商品並みの予測精度を確保できるようになりました。
品目別・納品先別の販売分析データは、小売事業者に対する棚割や販促の提案にも生かされています。過去の取り組みと販売実績を比較分析することで、売上の拡大により有効な提案を論理的に導出できるからです。
花王は、1966年に販社を設立以来、小売に直接商品を販売・供給する独自の取引関係を構築しており、その関係性ゆえに得られる品目別・納品先別販売データを売上とコストの両面に最大限生かしているといえるでしょう。
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