花王・アマゾン・アスクルの事例に学ぶ、デマンドチェーンマネジメントの重要性サプライチェーンの新潮流「Logistics 4.0」と新たな事業機会(3)(2/3 ページ)

» 2019年10月15日 10時00分 公開

アマゾンのデータマーケティング

 アマゾン(Amazon.com)は、購入実績や閲覧履歴などのデータを基に、ユーザーに対してお薦めの商品を提案していますが、サプライチェーンを最適化するための情報源としても活用しています。

 日本のように国土が狭く、ユーザーの密集度が高い国であれば、午前中に注文を受けた商品を当日中に届けられるようにするため、売れ筋商品を中心に在庫をある程度点在させることも比較的容易ですが、米国で同様のサービスを実現しようとなると在庫拠点を大幅に増やす必要が生じます。アマゾンは、この問題に対応するため、購入実績や閲覧履歴だけではなく、ショッピングカート内の保存商品、キャンセルや返品の履歴、商品ページでのマウスカーソルの動態、季節や曜日での変動などを基に、翌日の注文数を予測し、注文を受ける前に出荷をするという“予測発送システム”の運用を開始しました。

 在庫拠点から出荷された商品は、各地に点在する通過型の中間拠点に運ばれます。その間に受けた注文を基に宛先が設定され、中間拠点で方面別の宅配トラックに積み替えられるわけです。結果としてアマゾンは、在庫拠点を増やすことなく当日配送の範囲を拡大することに成功しました。

アマゾンの予測発送システム アマゾンの予測発送システム(クリックで拡大) 出典:公表資料を基に筆者作成

 アマゾンは、ユーザーの情報をマーケティングに生かすことにも積極的です。スマートスピーカー「Amazon Echo」は、音声認識エージェント「Alexa」を搭載しており、音楽の再生だけではなく、メッセージの送信、天気予報の確認、レストランの検索、家電製品の操作、アマゾンのECサイトでの買い物といったさまざまな機能を提供していますが、ユーザーの情報を入手するための端末としての側面もあります。Amazon Echoが設置されていれば、その音声情報や登録データを通じて、住所、家族構成、家にある家電製品、好きな音楽・食事、普段よく見ているテレビ番組、最近の話題といった多様なユーザー情報を入手できるからです。

 Amazon Echoの普及を通じて、住環境や家族構成に応じた戦略的なプロモーション、商品・サービスの垣根を越えたタイアップ、テレビの前にいる視聴者の属性に応じたCMの入れ替えなども可能になるはずです。そう考えると、Amazon Echoは、消費者の家の中での行動を見える化し、マーケティングに生かすことのできるデマンドチェーン型のプラットフォームシステムと捉えるべきなのかもしれません。

 2018年に1号店がオープンした無人コンビニ「Amazon Go」も、「店員がいらない」ということだけに注目すると、その真の実力を見誤ります。Amazon Goは、店内にセンサーを張り巡らすことで、レジレスを実現しているわけですが、その最大の価値は来店客の情報を遍く収集できることにあります。「誰がその商品を買ったのか」「その人は誰と来たのか」「どういう身なりだったのか」「一度手にとって買わなかったものは何か」といった、POSシステムでは分からなかった情報を収集できるようになります。

 このデータを活用すれば、消費者の目にとまりやすいパッケージ、ターゲットとする消費者にピンポイントで訴求するプロモーション、買い物のしやすさと買いたくなる演出を兼ね備えた店舗レイアウトなどを合理的に考えられるようになります。メーカーや小売チェーンからすれば、Amazon Goは「商品をリアルチャネルでよりよく販売するための情報を集めるツール」といえるでしょう。

アマゾンのユーザーデータベース アマゾンのユーザーデータベース(クリックで拡大) 出典:公表資料をもとに筆者作成

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