特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

世界で最も愚直な会社、アマゾンの脅威サプライチェーンの新潮流「Logistics 4.0」と新たな事業機会(10)(3/4 ページ)

» 2020年06月23日 11時00分 公開

次なる利益の柱はロジスティクス

 AWSは、EC事業のために投資されたサーバシステムを外販することによって高収益を得ているビジネスモデルです。EC事業を通じて培われた「顧客からの要望に徹底的に対応することでサービスレベルを高めていくスタイル」は、このAWSにおいても生されています。ゆえに、コスト競争力とサービスレベルの両立を実現できたわけです。

 このAWSでの成功体験は、次なる利益の柱を構築するに当たっても生かされるはずでしょう。その対象は「ロジスティクス」に相違ありません。

 物流センターを中核としたアマゾンの物流ネットワークは、AWSと同様、EC事業のために投資されたアセットです。アマゾンは、その自前化と機能拡充を着々と進めています。

 連載第7回で記しましたが、アマゾンは2012年にロボットメーカーのKiva Systems(現Amazon Robotics)を買収しました。Kiva(現Drive)と呼ばれる同社の物流ロボットは、掃除ロボットを大きくしたような形状であり、保管棚の下に入り込み、持ち上げて、出荷する商品を棚ごと運んでくることができます。

アマゾンの物流ロボット「Drive」 アマゾンの川崎FC(フルフィルメントセンター)で運用されている物流ロボット「Drive」(クリックで拡大) 出典:アマゾン

 現在、アマゾンはDriveを全世界で10万台超も運用しています。類似の物流ロボットを製造・販売するメーカーも存在しますが、その実績は最大でも数千台程度です。つまり、アマゾンは物流ロボットの運用に関して比類なき実績を有するといえるでしょう。しかも、アマゾンはDriveを外販せず、門外不出としているのです。

 アマゾンが保有するものは物流センターやロボットだけではありません。米国では既に数千台規模の自社トラックを運用しています。2015年からは、一般個人に宅配業務を委託するAmazon Flexを開始し、全米の主要都市に導入しました。ドローンを活用した宅配サービスの事業化にもチャレンジしています。日本では、宅配クライシスが話題になっていますが、アマゾンはラストワンマイルさえも自前化することで、事業リスクへの対応力を高めているわけです。

 長距離輸送に関しても同様の動きが見受けられます。航空輸送においては、リース契約で40機超の自社貨物機を導入しました。海上輸送についても、北米−中国間でのNVOCC(非船舶運航業者)の事業承認を取得しています。つまり、アマゾンは物流サービスの提供に必要なアセットを並の物流会社以上に保持しているのです。

アマゾンの物流会社化 アマゾンの物流会社化(クリックで拡大) 出典:アマゾンの会社発表資料等より筆者作成

 物流はAWSと同様の状況にあるといえます。EC事業のために投資された物流ネットワークを外販するのであれば、十分なコスト競争力を発揮できるはずです。Driveを活用した物流センターの省人化オペレーション、EC事業を通じて培った出荷・配送システムは、既存の物流会社以上の機能性を有します。DriveやAmazon Flexを外販しないのは、「モノ売り」ではなく、物流サービスという「コト売り」で収益を得ようとする戦略ゆえと推察されます。アマゾンが「世界最大の物流会社になる日」はそう遠くないでしょう。

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