ところで、大手旅行代理店のHIS(エイチ・アイ・エス)は、ホテル経営を主とする事業者ではないにもかかわらず、世界初のロボットホテル「変なホテル」を開設し、群を抜いた高収益を実現しました。その秘訣はロボットの活用にあります。変なホテルは、受付、案内、清掃、荷物の運搬といった作業をロボットに担わせることで、従業員の労働生産性を約4倍に高めることに成功したのです。
中には、ディスプレイを介したチェックインやチェックアウトを手間と思ったり、ホテルスタッフとの会話がないことを味気ないと感じたりする宿泊客もいるでしょう。でも、変なホテルは、マットレスの品質や通信環境などにはこだわっています。むしろ、そのことの方が大事だと考える宿泊客も少なくないはずです。実際、変なホテルに宿泊した人の90%近くは「また利用したい」と回答しています。
変なホテルの「変」には、「変化し続ける」という意志が込められています。「目指すは、常識を超えた先にある、かつてない感動と快適性」とうたわれています。誤解を恐れずにいえば、宿泊客の全てのニーズに対応するのではなく、必要な機能と提供すべき価値を取捨選択し、メリハリを効かせることによって、今までのホテルにはない労働生産性と、全てではない宿泊客からの十二分の支持を得ることに成功したといえるのではないでしょうか。
デベロッパーが物流センターの運用者になることを目指すのであれば、変なホテルのような割り切りが必要です。そうでなければ、物流センターの運用に関して豊富な経験と実績を有する物流会社に勝てません。「物流会社の常識からすればあり得ないビジネスモデル」を創造してこそのビジネスチャンスです。
既存の事業者である物流会社は、いまだに労働集約的かつ属人的なオペレーションで物流センターを運用しています。そして、その多くは、荷主である顧客からの依頼に広く対応できることを強みとしています。デベロッパーはこの常識を打破すべきです。人手には頼らないオペレーションと、特定のニーズへの対応を切り口に、新たなビジネスモデルを創造できれば、今までの物流センターにはなかった高収益を実現できるはずです。
さて、本連載では第6回から「サプライウェブ時代のプラットフォームビジネス」を紹介してきました。トラック(第6回)、ロボット(第7回)、ソフトウェア(第8回)、そして物流施設(今回)と、特定の領域を対象に、トランスフォーメーションの方向性を概説してきたわけですが、そういった従来のセグメンテーションでは捉えられないプラットフォーマーが出現しつつあります。次回は、その代表的存在であるアマゾン(Amazon.com)のプラットフォーマーとしての戦略を解説します。
小野塚 征志(おのづか まさし) 株式会社ローランド・ベルガー パートナー
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士総合研究所、みずほ情報総研を経て現職。ロジスティクス/サプライチェーン分野を中心に、長期ビジョン、経営計画、成長戦略、新規事業開発、M&A戦略、事業再構築、構造改革等を始めとする多様なコンサルティングサービスを展開。2019年3月、日本経済新聞出版社より『ロジスティクス4.0−物流の創造的革新』を上梓。
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