特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

「データ2.0」時代は製造業の時代、東芝が描くCPSの意義と勝ち筋とはMONOist IoT Forum 東京2019(前編)(2/2 ページ)

» 2020年01月10日 13時30分 公開
[三島一孝MONOist]
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なぜ「つながる」ことが重要になるのか

 「つながる」ことが重要になる意味として島田氏は「パーコレーション理論」を示す。「ある種の情報のやりとりが臨界点を超えるとイノベーションが起こる。これをどう生み出していくかが大事だ」と島田氏は考えを述べている。

 また、世界で進む「不確実性」についても「(カオスを示した)ローレンツアトラクタで示されたのは一言でいうと『世界の動きは予測できない』ということだ。わずかなノイズでさまざまな変化が起こる。その不確実性がどんどん高まっており、それがVUCAの時代などといわれているわけだ。一方で人間は『整理されている』ことを求めており社会も階層など、秩序によって整理されている。ただ、実際にはインターネットなどの存在が証明したように、少数のハブが膨大なリンクを持ちさまざまなところとつながるような『スケールフリーネットワーク』の構造となっている」と島田氏は語る。

 さらに「ユヴァル・ノア・ハラリ氏の著作では人類繁栄のスケールエフェクトの3つの柱として処理、データ、概念というものがある。要は情報処理の量を拡大することで人類は発展してきたという考え方である。過去は情報処理能力を持つ人の数が増えることで、情報処理能力を発展させ繁栄してきた。ただ、今は人口が増えなくても情報処理能力を高めることができる。つまりスケールフリーネットワークの中で情報流通をより過密にしていくことができれば新たな価値が生み出すことができるということだ」と島田氏は「つながる」価値を強調した。

 インターネットを基軸としつつ、IoTやAIなどの技術が発展したことにより、これらの階層を飛び越えて、自由にさまざまなところが結び付き、情報を流通させる世界が広がってきている。それをさらに加速させる動きがIoTで価値を生む本質だということだ。「その意味で、IoTやデジタル変革で、経営企画室やIoT推進室など一部の部門に『デジタル変革で何ができるか』を検討させるような動きは本質を外している。より多くの人が参加し、交流を活発化させることでしか、新たな価値は生み出せない。東芝では『みんなのDX(デジタル変革)』として、全員参加でデジタル変革に対して何ができるかという取り組みを進めている」と島田氏は東芝での取り組みについて語る。

 既に社内でさまざまなコンテストを開催しているとし、その中で生み出した33のプロジェクトを進行中だという。これらのプロジェクトを必要投資規模が大きいのか小さいのか、成果が出るまでの期間が短期で実現できるのか長期にわたるのかを4つの象限に分けて検討し、小さな投資で短期で成果が出るものなどから優先順位をつけて取り組みを進めているところだという。

IoTでのビジネスの具体的な進め方

 IoTやデジタル変革などでさまざまなビジネス創出への期待が高まっているが「重要なのはビジネスとしてマネタイズをどうするのか、その道筋を具体的に描けるのかどうかという点だ」と島田氏は強調する。

 その点で「IoTにより得られるモノのデータへの期待感は高いものの、ビジネスモデルの構築が難しい。投資回収には長い期間が必要になる。ドイツ工業アカデミー評議会(acatech)ではインダストリー4.0で活用するデータについて、IoT、IoP(Internet of People)、IoS(Internet of Services)の3つのデータを活用することを訴えているが、既にサイバー企業がビジネスモデルを示していてくれているIoPのデータを活用するモデルがビジネスとしては一番早い」(島田氏)とする。

 そこで力を入れている取り組みの1つが、東芝テックが展開するPOSレジ基盤を活用したレシート情報を使うスマートレシートの展開だ。対応店舗で登録すれば、レシート情報がスマホに送られてくるというもので、ユーザーにとっては家計簿などの支出状況が簡単に把握できる利点がある。モバイルTカードとの連携なども推進し、ビジネスパートナーなども拡大することで、購入の接点情報をプラットフォームとしたさまざまなキャンペーンやアプリケーションの展開を目指しているという。

 一方で、IoTをさらに広げ「IoTを民主化する」(島田氏)取り組みとして進めているのが2019年11月に発表した「ifLink」である。「ifLink」は、東芝デジタルソリューションズが独自開発したIoTプラットフォームでとにかく簡単にIoTシステムが構築できるというのが特徴だ。「ドアが開いたら(IF)、ライトが光る(THEN)」のように、IF-THEN型の設定でスマートフォン端末につながる機器同士を結び、動作させることが可能である。プログラミングが不要で接続できればスマートフォン端末で設定できる。ITの専門知識を持たないユーザーでも活用できる。

 利用促進の工夫として「IF」と「THEN」を示すカードを用意。「ifLink」アプリをダウンロードしたスマートフォン端末で、「IF」と「THENS」の2つのカードを撮影すると、自動的に「IF-THEN」が設定され、それぞれ接続しているデバイスを選択するだけで簡単にプログラム作成が可能となる。これをさらに拡大するためにオープンコンソーシアム化し、既に400社以上の参加申し込みが来ているという。

photo 「ifLink」の「if」「Then」カード。スマートフォン端末でカードを撮影するだけで条件が設定できる

 島田氏は「IoTを民主化するためには『3つのA』が必要となる。1つ目は『Affodability』で安価であるということ。2つ目が『Agility』でアジャイルに短期で開発運用できることだ。3つ目が『Availability』でいつでも簡単に使えるということだ。これらを実現できればIoTの仕組みは爆発的に増える。利用する人が増え、流通する情報量が多くなれば、パーコレーションでイノベーションが起こりやすくなる。そういう世界を目指していきたい」と語っている。

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