経営危機から脱し新たな道を歩もうとする東芝が新たな成長エンジンと位置付けているのが「CPS」である。東芝はなぜこのCPSを基軸としたCPSテクノロジー企業を目指すのか。キーマンに狙いと勝算について聞いた。
デジタル技術と「データ」を基軸とし、従来の産業の姿が大きく変わろうとする第4次産業革命の動きが広がりを見せている。IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)などの技術発展により、リアルな世界で起こる事象をデジタルデータ化し、デジタルの世界でAIなどを活用することで知見として活用できる「CPS(サイバーフィジカルシステム)」の世界である。
このCPSを新たな成長エンジンだと位置付けているのが、経営危機から脱し新たな姿の模索を進めている東芝である。なぜ東芝は、CPSテクノロジー企業としての将来像に勝算を描いているのだろうか。2018年10月にシーメンスから移り、東芝のコーポレートデジタル事業責任者(Chief Strategy Officer)に就任した、島田太郎氏に話を聞いた※)。
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ITmedia産業5メディア総力特集「IoTがもたらす製造業の革新」のメイン企画として本連載「製造業×IoT キーマンインタビュー」を実施しています。キーマンたちがどのようにIoTを捉え、どのような取り組みを進めているかを示すことで、共通項や違いを示し、製造業への指針をあぶり出します。
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MONOist 島田さんはシーメンス時代にインダストリー4.0やデジタル変革(デジタルトランスフォーメーション)などのある種“伝道師”としてさまざま活動を行ってきました。そういう知見を持つ中でなぜ東芝に入社されたのでしょうか。
島田氏 さまざまなキャリアを積み重ねる中で最後は日本企業のためになることをしたいという思いがあった。シーメンス時代にインダストリー4.0などを含め、さまざまなドイツの取り組みを紹介する機会が多かったが、その中で「日本はこんなことをしていては駄目だ」ということを伝えることが多かった。外側の立場で日本および日本企業の取り組みを見ていると「こうすれば良いのに」と考えさせられることが多かったからだ。そうした中、東芝でチャンスの場をもらったので「やってみよう」という考えに至った。
MONOist デジタル変革の動きの中で日本企業は遅れているとも指摘されています。どういうことを考えるべきだと思いますか。
島田氏 デジタルトランスフォーメーションという捉え方はさまざまなものがあるが、基本的にはGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)などが示したようにどこかの領域でプラットフォーマーになることを考えないといけない。1990年台の世界の時価総額上位企業には多くの日本企業が入っていたが、ここ数年で見た場合にはGAFAが圧倒的な存在感を示し、さらに日本企業は上位には皆無という状況になってしまっている。これはサイバーの領域でのプラットフォーマーとなることができた企業がいなかったということが大きな要因だ。ただ、これからは日本企業にも新たなチャンスが来ると考えている。
現在のプラットフォーマーたちはサイバーの世界を主戦場としているので、基本的にはソフトウェアの開発が中心となっている。一方で日本は製造業が中心となっているのでどうしてもハードウェアの比率が高くなっており、ハードウェア8割、ソフトウェア2割という考え方が中心だ。ただ、サイバー空間とソフトウェアを中心とした世界はもう限界が見えつつある。それはこれらのプラットフォーマーがどんどんリアルの世界に踏み出してきていることを見ても明らかだ。
これからの新たな革新はこのサイバーとリアルの間、ハードウェアとソフトウェアの間の世界で生まれてくる。このCPS領域での有力なプラットフォーマーはまだ不在の状況である。ハードウェア5割、ソフトウェア5割という世界において、ソフトウェア中心の世界からリアルの世界に踏み出す現在のプラットフォーマーに対し、ハードウェア中心の世界からサイバーの世界に踏み出す日本企業という構図となる。製造業を中心とした日本企業にも大きなチャンスがある。東芝では、このCPSテクノロジー領域での世界初のプラットフォーマーとなることを目指していく。
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