京都大学は、脊椎動物に最も近い無脊椎動物のホヤの脳の前方領域において、脊椎動物の吻側神経菱と同様にFoxg遺伝子が発現していることを発見した。
京都大学は2019年11月12日、脊椎動物に最も近い無脊椎動物のホヤの脳の前方領域において、脊椎動物の吻側神経菱(ふんそくしんけいりょう)と同様にFoxg遺伝子が発現していることを発見したと発表した。同大学大学院理学研究科 准教授の佐藤ゆたか氏らによる研究成果だ。
脊椎動物の大脳は、受精卵から個体が発生していく過程で、中枢神経系の最前方に位置する終脳と呼ばれる構造から生じる。終脳の形成には、さらに前方に位置する吻側神経菱からのFGF分子を介した信号伝達が必要だ。
このFGFをコードするFgf遺伝子は、Foxg転写因子タンパク質をコードするFoxg遺伝子の働きにより発現する。FGFの信号を受け取った細胞では、Foxg遺伝子の発現が誘導され、これによってその細胞でもFGFが作られる。こうした互いに活性化しあうループ状遺伝子調節回路によって、終脳は形成される。
脊椎動物では、終脳形成に必要な吻側神経菱は脳に分化せず、頭部プラコードと呼ばれる構造を作って頭部の感覚器官などを形成する。ホヤは大脳や終脳を持っていないが、従来の研究から、頭部プラコードに似た構造を持つことが分かっている。
今回の研究では、ホヤ胚の頭部プラコード様細胞が発生していく過程で発現する、転写調節遺伝子やシグナルタンパク質をコードする遺伝子の機能を調査。互いの調節関係を表す、遺伝子調節ネットワークの構造を明らかにした。
その結果、ホヤ胚のプラコード様細胞にもFoxg遺伝子は発現していたが、Fgf遺伝子は発現していないことが分かった。Foxg遺伝子は潜在的にFGF分子による制御を受けるが、Foxg遺伝子はFGFシグナル分子の発現を誘導できず、ループ状遺伝子調節回路が作られていなかった。このことから、脊椎動物とホヤの祖先が分岐した後に、脊椎動物の系統でFoxgがFgf遺伝子を制御するようになり、終脳獲得につながったと考えらえる。
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