ここまで説明したシミュレーション技術は、従来のT-modeの進化といえるものだ。守屋氏が「タイヤの設計開発で革新的なスピードと精度が得られる」と強調するT-MODEとしての大幅な進化は、設計支援技術とSPDMによるところが大きい。
TOYO TIREにおけるタイヤの設計開発プロセスでは、設計者がタイヤの設計開発の方向性を定めるために簡易なシミュレーションを行っている。これまで、このシミュレーションデータはデータベースなどに蓄積されておらず、設計者個人のデータとして取り扱われていた。T-MODEでは、この設計者によるシミュレーションデータを共通資産として一元管理し、設計者の間で共有できるようにした。このシミュレーションデータを一元管理するシステムがSPDMになる。なお、SPDMの構築はダッソー・システムズが支援した。
そして、設計データ、設計者シミュレーションデータ、試作したタイヤから得られた実験データのひも付けを行い、データベース資産として蓄積しておく。T-MODEの設計支援技術は、求められる設計仕様に対してこのデータベースを用いた機械学習を行うことで、タイヤの特性値を「ほぼ瞬時」(守屋氏)に算出する機能になる。従来は、設計仕様に適合する特性値を求めるために設計者シミュレーションを行っていたが、この場合どうしてもトライ&エラーとなり一定の時間がかかっていた。T-MODEの設計支援技術は、この作業を機械学習により自動的で行ってくれるとともに、より高い精度で特性値を導き出しくれるわけだ。また、第6世代HPCシステムは、設計支援技術の機械学習をより高速に行う上でも貢献している。
さらに守屋氏は「T-MODEは逆の使い方もできる」と主張する。これまでタイヤメーカーは、自動車メーカーが要求する設計仕様を満たすタイヤを開発してきた。しかしT-MODEの逆の使い方では、目標とするタイヤの性能を実現するための構造や形状、パターンなどの設計要因を特定できるようになり、これをタイヤメーカーが自動車メーカーに提案するようになり得るとする。
なお、T-MODEの社内運用は今から始める段階であり、2019年末の本格利用開始に向けて、シミュレーションデータの収集や設計データ、実験データとのひも付けなどを急ピッチで進めていくことになる。
約半年という短期間での立ち上げが可能な理由について、シミュレーションソフトウェアが自社開発であることを挙げた。「市販のシミュレーションソフトウェアの場合、所有しているライセンス数の上限がボトルネックになってシミュレーションデータを大量に収集することができない。しかし自社開発ソフトウェアであれば、ライセンス数は気にしなくていいので、高性能のマシンさえあれば一気にシミュレーションデータを蓄積することが可能だ」(守屋氏)としている。
なお、T-MODEについては「人とくるまのテクノロジー展2019名古屋」(2019年7月17〜19日、ポートメッセなごや)で展示される予定だ。
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