東洋ゴム工業は、EV(電気自動車)ベンチャーのGLMとEV向けの足回りモジュール(複合部品)の共同開発に取り組むことで合意した。タイヤメーカーとして知られる東洋ゴム工業は、なぜEVベンチャーと共同開発に乗り出すのか。同社 常務執行役員 技術統括部門管掌の金井昌之氏に聞いた。
東洋ゴム工業は2018年1月17日、EV(電気自動車)ベンチャーのGLMとEV向けの足回りモジュール(複合部品)の共同開発に取り組むことで合意したと発表した。両社は、道路状況に合わせて自動車の各種緩衝装置を自動制御して揺れや振動を緩和する滑らかな乗り心地「フラットライド」を実現するエア式のアクティブサスペンションについて、2020年末までをめどに量産可能な状態まで開発を進めたい考え。
東洋ゴム工業といえば北米で高い評価を得ている「PROXES」や国内向けの「TRANPATH」などのブランド知られているタイヤメーカーだ。今回、GLMと共同開発を目指す自動車部品事業は、売上高の85%、営業利益の90%を占めるタイヤ事業を差し引いた残りのさらにその一部分にすぎない。
また、自動車部品事業の多くは、タイヤと同じゴム素材を用いたエンジンマウントなどティア2サプライヤーにとどまっている。同社 常務執行役員 技術統括部門管掌の金井昌之氏は「当社の自動車部品事業では、メカニカルな制御システムは手掛けていない。高い技術を有するゴム材料によって、振動を抑制する“制振”の側面から貢献するというのが従来の事業の在り方だった」と語る。
そんな自動車部品事業の中で、ティア1サプライヤー的な位置付けにあるのが商用車向けのエアサスペンションだ。乗用車向けのサスペンションでは、スプリングなどの金属ばねやダンパーなどの油圧部品を使って振動や衝撃を吸収することが一般的だ。これに対してエアサスペンションでは、ゴム材料を使った空気ばねを用いる。空気ばねは衝撃の吸収性が高いこともあり、商用車の中でも特に乗客の乗り心地が求められるバスで広く採用されている。空気ばねを用いた車高調整機能によりバリアフリー対応も可能となる。「当社ではもともと鉄道車両向けに空気ばねを開発しており、その技術を自動車向けに適用した。既に約25年の歴史がある」(金井氏)という。
今回、東洋ゴム工業とGLMが開発しようとしているのは「エア式のアクティブサスペンション」である。まず、自動車の揺れや振動を能動的に電子制御するアクティブサスペンションは、スプリングやダンパーなど一般的なサスペンションの部品を使って開発する場合、その電子制御は極めて複雑になる。
では、衝撃吸収性の高いエアサスペンションであれば、アクティブサスペンションを容易に開発できるかというと、そううまくはいかない。空気ばねの圧を瞬時に変更ができないため、スプリングやダンパーと比べて応用が難しいのが実情だ。
両社が開発を目指すエア式のアクティブサスペンションは、電子制御技術を組み込んだ次世代型のエアサスペンションに、ショックアブソーバーやセンサーなどを組み合わせた足回りモジュールとなる。GLMは、アクティブサスペンションや足回り機構の構造、車両全体の要素技術を東洋ゴム工業に開示し、東洋ゴム工業は高度なエアサスペンションの技術や、タイヤ開発で培ってきた材料技術/解析技術などを適用することで実現を目指す。
金井氏は「エネルギーや振動、騒音を吸収するという観点で、ゴムにしかできなことがあるはずだ。複雑になりがちなアクティブサスペンションにゴムの要素を組み込むことで、よりシンプルにアクティブサスペンションを開発できる可能性がある」と意気込む。
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