EVは現在かなり安くなったとはいえ、電池や他のパワートレイン部品が高価であることからガソリン車に比べて価格が高い。ワイヤレス給電装置は、当初は車両とグラウンド側機器がセット販売となるだろう。またグラウンド側は設置工事も必要となる。このため、初期段階で販売台数があまり期待できない場合、高価格となることが予想される。最初は補助金などの支援が望まれるのではないだろうか。
ではワイヤレス給電はどこから普及するのだろうか。最も可能性が高いのは新エネ車の販売が急伸している中国ではないだろうか。2018年における中国自動車販売台数は2808万台と、前年比2.8%減となったのに対し、新エネ車(※3)販売は逆に前年比62%増の126万台まで達している。
(※3)新エネ車=新エネルギー車、EVとプラグインハイブリッド車、燃料電池車が該当する。
また中国は2015年に国家能源局が「電気自動車の充電インフラの発展に関するガイドライン」を公表するとともに、第13次5カ年計画(2016年〜2020年)で普通充電および急速充電の各地域の目標を設定した。次に予定される第14次5カ年計画(2021年〜2025年)では、ワイヤレス給電の目標数値も盛り込まれるのではと推察する。
さらに注目すべきは中国の新都心である雄安新区だ。雄安新区は北京の南西105kmの距離にあり、北京首都機能の分散とイノベーションによる発展モデル都市となることを掲げている。このため、域内は全て自動運転車のみを走行予定しており、自動運転車(乗用車やバス)と相性の良いワイヤレス給電を組み合わせた最先端の技術が、世界の実験場として提供されると推測する。バスの場合、グラウンド側のレゾネータ送電機器は、必ずしも地面でなく、街灯のように上からバス上部に設置されたレゾネータ受電装置に送電する方法もあるだろう。
それでは日本はどうだろう。日本ではまだEVの販売台数が少ないことから、日系自動車メーカーも中国市場を向いて開発を進めるように思われる。日本市場では、最初は家庭用からスタートするのではないか。というのは、住宅メーカーは太陽光発電、家庭用蓄電池、V2Hパワーコンディショナーなど、どんどんエネルギー充放電機器の設置を進めており、住宅メーカーからの勧めや、自動車メーカーからの案内で少しずつ設置が進んでいくと思われる。ただし、日本の部品メーカーにとっては、販売ボリュームが少ないことから、2030年ごろまで我慢の年が続くのではないか。もしくは成長望める中国市場への進出も考えられる。
また、それ以外にも期待される分野がある。1つは双方向給電である。グラウンド側から車体側に送電できるということは逆も可である。機器を開発することで、V2Xとしての双方向給電機器として活用可能となる。ただし、一気にこれに行くのではなく、まずはグラウンド側から車体側にワイヤレス給電する単一機能が進むと思われる。
さらに、日本の大学始め多くの関係者が関心を寄せているのが走行中ワイヤレス給電である。これは路面より給電しながら走行するシステムであり、既に英国や韓国では実際の道路を用いて実証試験を始めている。このように、ワイヤレス給電はようやく実用化に向けて動き出そうとしており、今後も新しい技術が開発され、期待される分野である。
WiTricity訪問時に、エジソンではなく、電磁気学を確立したイギリスの理論物理学者ジェームズ・クラーク・マクスウェルの肖像画が飾ってあったことを思い出す。まさか逝去140年後にこのような形で社会に貢献することになろうとは、ご本人も驚いているのではないだろうか。
和田憲一郎(わだ けんいちろう)
三菱自動車に入社後、2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。開発プロジェクトが正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任。2010年から本社にてEV充電インフラビジネスをけん引。2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立。2015年6月には、株式会社日本電動化研究所への法人化を果たしている。
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