ワイヤレス充電で世界最先端を走るWiTricity、その実像に迫る和田憲一郎の電動化新時代!(1)(1/3 ページ)

三菱自動車の電気自動車「i-MiEV」の開発プロジェクト責任者を務めた和田憲一郎氏が、自動車の電動化について語る新連載。第1回は、電気自動車の普及の鍵を握るワイヤレス充電技術で世界最先端を走るWiTricityの実像に迫る。

» 2013年05月17日 09時00分 公開
和田憲一郎の電動化新時代!

 米国の小さな企業が世界を揺るがそうとしている。いや、既に揺るがしているのかもしれない。その小さな企業、WiTricity(ワイトリシティ)は、ワイヤレス充電の革新技術で世界最先端を走っている。そのような技術はなぜ可能になったのか。筆者は、同社が本社を置く米国マサチューセッツ州ボストンに訪問し、その実像に迫った。

ワイヤレス+電気

 WiTricityという、Wireless(ワイヤレス)とElectricity(電気、電力)を組み合わせた奇妙な企業名を筆者が聞いたのは2009年にさかのぼる。当時は充電電力がまだ100W程度であり、とても電気自動車(EV)の充電装置として使用できるレベルではなかった。しかし、実際にワイヤレス充電によって明かりが点灯するさまを東京で目の当たりにし、とても感動したことを覚えている。

 その後、充電電力が向上したこともあって、2011年9月には、WiTricity、IHI、三菱自動車の3社で、ワイヤレス充電に関する研究開発で合意に達した(関連記事:広がる非接触充電、三菱自動車が開発始める)。トヨタ自動車も、2011年4月にWiTricityと提携している(関連記事:トヨタ自動車、電気自動車の無線充電に取り組む

 このように、電気自動車(EV)向けのワイヤレス充電技術の話題になると、必ずその名前が出てくると言っていいWiTricityだが、その実像は意外と知られていない。

 筆者は、米国マサチューセッツ州ボストン西部にあるWiTricity社を訪問した。訪問当日にボストンマラソン爆弾事件が発生したものの、無事に取材できたので、同社の取り組みや、EVへのワイヤレス充電技術搭載に向けた課題などについて紹介したい。

MITの研究からスピンアウト

WiTricity本社の玄関 WiTricity本社の玄関(クリックで拡大)
ロビーに掲げられたパテントの数々 ロビーに掲げられたパテントの数々(クリックで拡大)

 WiTricityは、マサチューセッツ工科大学(MIT)の著名な物理学研究チームが2005年に磁界共鳴方式*1)と呼ばれるワイヤレス充電の原理伝送方式を発表した後、スピンアウトして2007年に設立した企業である。主に、磁界共鳴方式ワイヤレス充電技術のパテント取得と、それに基づく商品開発を行っている。

 ボストン郊外のハーバード大学西方、閑静な住宅街に位置するWiTricity本社に入ると、壁一面に掲げられたパテントが目に飛び込んでくる。ロビー、会議室など至るところに掲げられており、いかにパテントを重視して取り組んできたかがうかがい知れる。同社のワイヤレス充電に関するパテントは、MIT時代に取得したものや出願中のものも含めて200件以上と、圧倒的な世界トップに立つ。


*1)磁界共鳴方式:ワイヤレス充電の1方式であり、レゾネータと言われる送電装置と受電装置にそれぞれコイルとコンデンサを埋め込み、共振器を磁界共鳴させて電力を伝送する。受電装置と送電装置間の伝送距離や位置ずれの許容差が大きくても高効率にワイヤレス充電を行えることが特徴。現在、WiTricityでは、充電電力として最大3.3kWまでの技術が開発されている。

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