まるで週1の連続ドラマのような感覚の記事、毎週水曜日をお楽しみに! 今期のメインテーマは「設計者が加工現場の目線で考える、 3DとIT活用の現実と理想のカタチ」。2018年7〜8月前半のサブテーマは『「こんな加工現場はいやだ!」 適切な3D化とIT化を考える』です。
まるで週1の連続ドラマのような感覚の記事、毎週水曜日をお楽しみに! 今期のメインテーマは「設計者が加工現場の目線で考える、 3DとIT活用の現実と理想のカタチ」。2018年7〜8月前半のサブテーマは『「こんな加工現場はいやだ!」 適切な3D化とIT化を考える』です。
>>前回:SCENE 3:「生産管理のココロ、現場知らず……」なお話」
「IT化」が浸透してきてから、よく聞かれるようになった「可視化」と「見える化」。これも言葉が独り歩きしていて、それぞれの言葉の違いがよく分からない方もいるのではないでしょうか。
2つの言葉は「情報を見えるようにする」という意味は同じですが、「可視化」は、「目に見えない情報を見える状態にする」という意味なのに対して、「見える化」は、「情報の見せ方を工夫して、現場の様子や工程の進捗状況をいつでも誰でも把握できるようにしておくことで、全員が現場の課題や問題点に気付きやすくなり、生産を効率的にできる」という狙いを秘めた言葉です。
何だか、「見える化」という言葉には「素通し」「お見通し」「風通しがいい」というニュアンスを感じるので、隠し事が出来ないという緊張感がありますね。それが問題発見と改善につながることを目的に「見える化」を進めるのでしょうが、「どんどん風通しを良くすれば、効率がどんどん上がってどんどんもうかる」という、よく分からない持論を持ち込んで、あれもこれもと「見える化」したがる人もいるようです。
前回お話した加工屋さんでは、POPシステムを導入して生産管理をIT化したことで、工程の進捗状況がリアルタイムで把握できるようになり、加工現場と生産管理が情報共有することでダブルチェック、トリプルチェックが働き、ポカミスは目に見えて減りました。そこまではすごく良かったのですが、可視化された生産情報に目を付けた経営層が、さらにそれを使って作業効率を上げて利益を増やそうと、「現場の見える化」を始めたそうです。具体的な方法は分かりませんが、「見える化」したことで自分のデスクからいつでも現場の様子が見えるので、ささいなことが気になって仕方がないのか、毎日会議を招集。「こんなに風通しがいいのに、なぜ問題に気付かないんだ。だから効率も利益も上がらないんだ!」と叱責するというのです。
会議に呼ばれる作業者は当然仕事の手を止めざるを得ないので、仕掛品が停滞するのは当たり前。これでは「見える化=ただの監視」になっていて役に立っていないどころか、経営層が現場の流れを停滞させるので、納期遅延は解消されず検収は遅れて、結果としてクレームは増えども利益は増えないという本末転倒な状況なのです。
せっかく「見える化」したのなら、それを手段にして個々の作業者がQCDの意識を高めるように指導をしていくのが筋なのに、聞けば、経営層の面々は加工現場にはめったに立ち入らないのだそうです。機械の稼働率はデジタル化できても、加工段取りのアナログ作業はデジタルで評価しにくいものですから、現場に入って状況を生で確認しない限り、どんなに「見える化」しようが全てを見ることは出来ないのですよね。
自分に見えている情報だけで、間接部門思考で指示を出したりルールを決めたりしようとすると、業務にひずみが生じて、そのしわ寄せが全て現場に来てしまう。そういう悪い例を見ました。「見える化」を目指す経営層は、一日でいいからみっちり現場に入って、生の状況をつかんでから、現場の質が上がるような「見える化」を検討してほしいものです。
次回から、新しいお題「汎用工作機械での3Dデータ活用を考える」が始まります。(次回へ続く)
藤崎 淳子(ふじさき じゅんこ)
長野県上伊那郡在住の設計者。工作機械販売商社、樹脂材料・加工品商社、プレス金型メーカー、基板実装メーカーなどの勤務経験を経てモノづくりの知識を深める。紆余曲折の末、2006年にMaterial工房テクノフレキスを開業。従業員は自分だけの“ひとりファブレス”を看板に、打ち合せ、設計、加工手配、組立、納品を1人でこなす。数ある加工手段の中で、特にフライス盤とマシニングセンタ加工の世界にドラマを感じており、もっと多くの人へ切削加工の魅力を伝えたいと考えている。
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