量産化に向けて次々に発生した課題だが、1つ1つをQCDミーティングで順番に解決していった。量産ラインの稼働当初はライン内エラー率が20%を超えるという惨憺たる状況だったが、徐々に改善が進み大きなトラブルはほぼ起こらない状況を作ることができるようになった。立ち上げ時に比べて2〜5倍以上のスループットを実現し、2交代制による稼働により、ほぼ計画通りの生産数量を実現できるようになってきたという。
さらに当初見込んだ通りに生産ライン当たりの人員は18人から11人に減らすことに成功。ラインの長さも約6m短縮することができた。臺場氏は「立ち上げ当初は4台に1台が止まるという感覚だった。しかし、生産本部と毎日話し合って改善を進めたことでさまざまな成果が得られるようになってきた。現在もさまざまな課題や成果について報告を進めているところだ」と述べている。
自動化に向けて苦労を重ねた中で得たものの1つとして、臺場氏は「設計と製造の連携」を挙げる。課題解決のために「部品の問題」「マシンの問題」「設計の問題」に切り分けるということを先述したが、「設計の問題」としても従来は製造側の要望で設計変更をするような動きは取りづらかった。臺場氏は「山形カシオのマザー工場化の流れの中で生産本部が生まれ、従来事業部ごとに個別で抱えていた生産部門を一元的に見ることができるようになった。その中であらためて生産を高度化していくという方向性を設計部門も生産部門も共通の目標とすることができたため、お互いに協力する動きができるようになってきた」と述べる。
これらの動きにより、問題の切り分けで「設計の問題」となった点については「設計部門にリクエストを出せば確実に修正してもらえるようになった。一緒に新たな自動化ラインを作り上げていくという体制だ」と協力の価値を強調する。
さらに、カシオ計算機ではこの「H28ライン」を通じて「スマート工場化」のノウハウを蓄積する考えである。既に「H28ライン」の生産情報はIoT(モノのインターネット)活用により、各種装置から情報を取得し、山形カシオのサーバに一元的に集約できる体制となっているという。臺場氏は「生産ラインで実際に起こっていることと照らし合わせて、生産データの活用をどのように進めていくのが正解なのかを提案していくのが『H28ライン』の役割の1つだ」と語る。
スマート化を推進することで得られる価値としては、「工場にとって大きな損失となるのはライン停止だ。特に自動化して機械化されたラインが止まると損失が大きい。そのために予防保全や故障予知などができることが理想だ」(臺場氏)とし、予防保全への期待を挙げる。
「H28ライン」を含む自動化への動きも今後さらに広げていく。「手組みとのバランスはあるが自動化率は高めていく。現在3ラインの自動化ラインを稼働させているが、8ラインまでは増やす計画である。さらにライン内でのさらなる自動化率向上にも取り組む」(臺場氏)。
ただ、そのためには、製造部門だけでは難しい領域も出てくる。例えば、現在の「H28ライン」でも手作業として残る巻線のはんだ付け工程だが、これを低コストで自動化できる装置はなく「自動化生産を見据えた設計が必要になる。設計や製造、調達など全部門が一体となってモノづくりを高めていく姿勢が重要になる」と臺場氏は今後の取り組みについて述べている。
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