自動化に遅れたカシオ計算機が描く、現実的な「スマート工場」構想製造業×IoT キーマンインタビュー(1/3 ページ)

カシオ計算機は、新興国の人件費高騰や人手不足などが進む状況を踏まえ、生産革新に取り組む。ロボットを活用した自動化を推進するとともに、工場間を結んだスマートファクトリー化にも取り組む。同社 執行役員 生産資材統轄部長の矢澤篤志氏に話を聞いた。

» 2017年08月21日 11時00分 公開
[三島一孝MONOist]

 コモディティティ化(日用品化、差別化できない市場)が激しい民生電子機器において、腕時計や計算機、電子辞書、電子楽器などでしぶとく食らいつき、しっかり残存者利益を獲得するカシオ計算機。全世界の多様なニーズに応える製品ラインアップを用意し、多品種少量生産でも利益を確保できる低コストで効率的な設計・生産体制でこれらをカバーすることで、強みを発揮してきた。

 しかし、求められる技術レベルが高まる一方で、新興国の人件費の高騰などが進んでおり、現場での改善レベルではコストが吸収できなくなってきている。この中で同社が踏み切ったのが、スマート化を見据えた工場の自動化である。カシオ計算機 執行役員 生産資材統轄部長の矢澤篤志氏に、生産革新の取り組みについて話を聞いた。

本連載の趣旨

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ITmedia産業5メディア総力特集「IoTがもたらす製造業の革新」のメイン企画として本連載「製造業×IoT キーマンインタビュー」を実施しています。キーマンたちがどのようにIoTを捉え、どのような取り組みを進めているかを示すことで、共通項や違いを示し、製造業への指針をあぶり出します。
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グローバルでの生産環境の変化

MONOist 自動化など生産体制の強化に取り組むきっかけになったのはどういう背景があったのですか。

矢澤氏 カシオ計算機では製品の85〜90%は海外生産で、製品のニーズが多様化する中で、少量多品種生産が求められることから、人件費の安い地域で人手による生産を中心に行ってきた。従来はロボットによる自動化については、ロボットそのもののコストやシステムアップのコスト、段取り替えを頻繁に行うコストなどを考えると、採算が取れなかったためだ。

photo カシオ計算機 執行役員 生産資材統轄部長の矢澤篤志氏

矢澤氏 しかし、ここ10年ほどの間に、新興国の人件費は高騰。中国は日本に比べて10分の1以下の人件費だったが、現在は5分の1程度まで上がっている。チャイナリスクなどで注目を集めたASEANもタイでは中国以上のスピードで人件費の高騰が進む。年間に10%以上のペースで人件費が上がり続けている中、離職率の高さなども考えると、移転コストや教育コストなど総合的な費用では決してコストが安いとはいえなくなってきた。

 一方で、生産している製品は複雑化が進んでいる。ただ、カシオ計算機が生産する製品はそれほど高価なものではないため、製品価格における製造コストも低く抑えなければならない。そのため、人件費による製造コストの上昇は、そのまま利益の圧迫につながる。製品の信頼性確保などへの要求も高まっており、将来的に人手を中心とした労働集約型の生産体制が立ち行かなくなる可能性が生まれてきた。そこで、自動化やスマート工場化を含めた生産革新への取り組みが必要になった。競合他社などに比べると多少遅れたかもしれないが、まずは自動化を含めた取り組みを進めることにした。

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