日々の作業管理を行う際の重要なよりどころとなる「標準時間(ST;Standard Time)」を解説する本連載。第3回では、製造企業の現場で間違って認識されていることが多い「標準時間」について正しく理解するために、その定義や構成について解説する。
製造企業の現場で「標準時間(S.T;Standard Time)」の必要性なども含めて、標準時間の話をよく聞きますが、ほぼ間違って認識されています。このことも、企業の現場で標準時間が活用されていない原因かも知れません。ここで“「標準時間」とは何か?”を正しく理解していただき、大いに活用されることを期待しています。
作業には、最適な作業方法と適正な時間があります。まず、標準時間は、最適な方法として作業設計された標準作業方法を作業測定によって時間に置き換えたものです。
仮に標準時間に代わる何らかの時間値を運用する場合は、標準時間をシッカリと理解した上で、具体的な運用において近似的時間を用いていくことが重要です。
「標準時間」は、決められた“標準の作業方法”と設備を用いて決められた“標準の作業条件”の下で、その仕事に要求される一定の熟練度と適正を備えた“標準的な作業者”が、その職務が十分に遂行できる状態で、“標準の早さ”で作業を行うときに、1単位の作業量を完成するのに必要な時間に、その作業に要する適切な“余裕時間”を加えたものが、ここでいう「標準時間」の具体的な定義となります。次に、定義中の用語について少し詳しく説明します。
作業の手順や作業方法など、その作業を遂行していくうえで最も適切な方法で、あらかじめ決められた作業方法を指します。標準作業方法と標準時間は、常に表裏一体の関係にあり、従って、標準時間を設定する際には、まず、作業手順や使用する治工具などを十分に検討して最善の作業方法を確立し、標準化(作業手順書化)しておく必要があります。
作業を行う場所、照明などの職場環境、使用する設備や治工具、その他、身体的にも心理的にも標準とみなせる状態をいいます。
その作業において一定の習熟期間を経て普通程度の技量を有し、その作業に習熟したと認められる作業者をいいます。すなわち、その仕事を行うことに適していて、決められた正しい方法で、その仕事を十分に成し遂げる能力を持った作業者を指します。
作業者の身体に対して有害な影響を受けることなく、1日中、作業を継続でき、それを毎日維持していくことができる最高の作業ペースを基準とします。どの程度の早さを標準とするのかは、その作業環境や作業条件などによって決定づけられます。標準の早さについては、次回の記事であらためて詳細を説明することにします。
作業を遂行していくためには、どうしても避けることのできない、いろいろ必要な時間が発生します。例えば、旋盤作業では摩耗したバイトの交換が必ず発生します。また、作業を行う際に、図面上の不明な点を上司へ確認するとか、朝礼への参加、用足しなどの時間を余裕時間といいます。
余裕時間は、作業遂行に必要な時間のほかに余分に加算された“ゆとり時間”のことではありません。
以上のように「標準時間」とは、その仕事に適正を持ち、習熟している作業者が、良好な作業環境、所定の作業条件のもとで正常な作業ペースにより、所定の仕事を、あらかじめ決められた方法に従って遂行するために必要とされる時間のことをいいます。従って、「標準時間」とは、ある作業の遂行に「かくありたい」とか「かくあるべし」といった時間でなければなりません。ですから、現場で行われている作業の測定結果でもなく、管理者や作業者が任意に決定した時間でもなく、絶対的な基準であることに留意しなければなりません。
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