理化学研究所は、組織透明化/3次元イメージング技術「CUBIC」が病理組織診断に応用できることを実証した。CUBICと従来の診断手法を組み合わせることで、より検査感度が高まるなど、病理診断法の新たなスタンダードとして期待される。
理化学研究所は2017年8月30日、組織透明化/3次元イメージング技術「CUBIC」が、病理組織診断に応用できることを実証したと発表した。同研究所生命システム研究センター グループディレクターの上田泰己氏と客員研究員の洲﨑悦生氏、大阪大学大学院 医学系研究科 教授の森井英一氏と助教の野島聡氏らの共同研究チームによるもので、成果は同月24日付の英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。
CUBICは、2014年に上田グループディレクターらが開発した技術で、主に基礎生物学領域における全脳/全臓器イメージングに用いられている。今回の研究では、CUBICのヒト病理組織診断法における有用性を詳しく検討した。
まず、CUBIC試薬では、肺とリンパ組織が特に良好に透明化できた。一度透明化した臓器片でも、その後透明化試薬をよく洗浄することで、従来の観察手法であるHE染色によるスライドガラスを作製できた。これを観察したところ、透明化処理による組織の変性はごくわずかで、透明化した組織に対しても従来の病理組織学的評価が十分可能だと分かった。つまり、CUBICは標準的な病理組織診断法と組み合わせることができる。
また、CUBICをヒト病理組織検体に用いて、3次元観察が可能な共焦点顕微鏡やシート照明顕微鏡で撮像したところ、各種組成や病的所見を3次元で明瞭に描出できた。
次に、パラフィンブロックに包埋された状態で保存されていた病変部組織にも、CUBICを適応できるか評価した。その結果、加熱や有機溶媒処理といった脱パラフィン操作を施すことで、透明化/3次元的イメージングが可能だと分かった。つまり、全国の病院病理部に保管されている、希少疾患由来のものを含めたほぼ全ての病理組織検体について、3次元的評価ができることになる。
最後に、実際の臨床病理検査にCUBICを適用した。大腸直腸がんのリンパ節転移を同定するスクリーニング系において、通常の手法だけでは、微小がん転移巣を完全に捉えることはできなかった。同検査に従来法とCUBICを用いたスクリーニングを併用したところ、新たに微小がん転移巣が同定され陽性と診断できた症例が出た。この研究において、検査感度は最終的に約85%から100%まで向上した。
病理組織診断では、薄切した病変組織を染色して作製したスライドガラスを病理診断医が顕微鏡で観察し、診断する。しかしこの方法には、肉眼で見て最も疑わしい部分の薄切断面だけを観察すること、平面上の組織しか評価できないなど、技術的な限界があった。そのため、病変組織を3次元的かつ包括的に評価できる新たな診断手法が求められていた。
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